館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【社会への発信はていねいにする必要があるのではないでしょうか】
2005.11.1
遺伝子と生活習慣の場合、どちらがどれだけの意味をもつのか、両者の関係はどうなっているのかということを解くにはどうするか。どちらについても知識が必要なことは確かですが、その関係が見えない中で病気を語るのはとても難しい状態です。イギリスのマドレーが書いた「やわらかな遺伝子」(原題はNature via Nurture 翻訳して紀伊国屋から出版しています。)はこの辺りを上手に述べています。研究の必要性はわかるけれど医療としての姿は見えて来ていないというのが現状ではないでしょうか。つまり今大切なことは、研究から医療までの総合的な姿を描くことだと思うのですが、それはなされていません。そこには、技術だけでなく生命観、人間観が関わるはずです。生命誌は、直接医療を対象にはしませんが、生命観、人間観は重要なテーマにしています。そこで少なくとも医療現場の人たちの生命観、人間観について、こうあって欲しいという考え方を出そうと考えました。それが“医療に関わる人のための生命誌講議”です。 話は長くなり、しかもあちこちとびましたが、企業の方に「医療の姿」を明確に語れる状態ではないのに、研究成果がすぐ医療や産業につながるかのような偏った情報が流れているのが気になっています。最近も、タンパク質にならないRNAが遺伝子のはたらきを調節する大事な役割をするらしいことがわかり、ここでも複雑さが見えてきました。あまり簡単にわかるかのように言うのは、生命科学のためにもよくないこと。もう少していねいにしないと、なんだかサギっぽくなってしまいますから。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |