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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【植物並みの感覚を持ってちょっと気をつけたら】

2005.11.15 

中村桂子館長
 本願寺の広報誌サンガのコラムに浜田さんという方が今年(2005年の夏)は朝顔の花が咲かなかったと書いていらっしゃいました。毎年いつもみごとに咲かせている人の花が今年はほとんど咲かなかったというのです。お隣のおばあさんはプランターをせっせと日当たりのよいところに動かしたのに、これも咲かず、“葉っぱばっかり繁って花が咲きません。お日様の光が変わってきたのでしょうか”と嘆いていたし、高知の友人も“高知は今年は朝顔が咲かない”と言ってきたと書いてありました。
 実は我が家もまったく同じ体験をしました。朝顔市の朝顔を送っていただき、朝日にあたる窓辺に置いておくと毎日毎日色変りの花が楽しめるというのが夏の決まりになっていました。7月に始まり、年を越すまで咲き続けるのが常でした。今頃もまだ絞んだ花がらを摘みとり、次の日の花を待つという日が続いていたはずなのです。それなのに・・・いつもと同じ場所に置いた鉢は、葉は茂ったけれど(これもいつもほど元気ではありませんでした)、花は数えるほどしかつかず、残念ながら10月に処理をして菊の鉢に変えました。植物には表の年と裏の年があると言われるけれど、夏休みの宿題で育てた朝顔以来、これほど咲かなかった記憶はありません。“お日様が変ったのでしょうか”という言葉にも現実味を感じています。何だったのだろう。答はわからないでいます。
 そこへ今日農業関係の方から乳白米の話を聞きました。秋の収穫時に高温のため、お米が乳白色になり、二等米になってしまって(実際に味も落ちるらしい)、農家に大きな打撃を与えているというのです。田植えを遅くすることも考えられているということ。この100年間で日本の平均気温が1℃(東京は3℃)上っているとありましたが、その中でも後半50年の上昇が大きいのではないのでしょうか。温度が少々上がったからってどうっていうことないでしょうという意見があり、それが受けているところもあります。物の見方にはいろいろあって、神様の眼で見れば、どうってことないような事柄でも虫の眼で見ると大変ということがたくさんあります。ただ大変、大変と狼少年のように騒ぐのはよくありません。虫の眼も神様の眼も両方大事ですが、お米づくりのような日常の基本を支えるところに変化が起きているということは、農業関係者でなくとも気にしなければいけないのではないでしょうか。そしてちょっと気をつけて暮らすようにしたいものです。
 植物からのメッセージを読み解くことも大事ですけれど、知識だけでなく同じ生きものとして私たちの感覚を植物並みにすることも必要なのではないかと思うのです。そうすれば面倒なことを言わずとも、自ずと“ちょっと気をつける”ことになるでしょう。ちょっと気をつけることができるようになると、本質が見えてくるはずです。その“ちょっと”が鍵だと思います。

 
 
 【中村桂子】


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