館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【頼もしい新しい動き】
2005.8.1
閑話休題。このところ「生命誌」への関心が広がっているのを実感します。音楽、演劇、美術とこの一ヶ月を見ても、さまざまな方からのはたらきかけや共同での活動がありました。先週は、人形浄瑠璃文楽太夫豊竹咲甫大夫さんが訪ねてきて下さいました。館に入ってすぐの所にある「共生と共進化」というパネルを見て“私のやっていることまさにこれ。文楽誌ですよ”という発言。3時間ほどお話を伺って本当に面白かったし刺激になりました。義太夫が日本の古典芸能の基本であり、今、それぞれ独立した分野になっている能、狂言、歌舞伎、落語などなど、本来つながったものということです。言われてみれば、内容が共通する演し物はたくさんありますね。ですからこれらの分野の方が、お互いに話し合い、勉強し合い、もう一度本来の姿を考えたり、またコラボレーションによって新しいものを生み出したりという活動をしていらっしゃるとのこと。能の鼓と浄瑠璃の三味線が一つの舞台をつくるなど想像しただけで楽しそうです。少し前なら破門になりそうなことではありますが、でも基本を考えることが思いがけない新しいものにつながるのはどの分野でも同じだと思いました。生きものも同じです。 共通の根を持ち、変わらないものを持ちながら変わっていく。その歴史と関係を見ていく生命誌に共感するところ大とおっしゃる意味がよく分かりました。だから「文楽誌」なのです。若い世代の活気を感じました。頼もしいです。“生命”を基本に考えていく面白さは、こういうところにあります。いろいろなところで“生命誌”につながることが起きているということは、時代が“いのち”を考える方向に向っているということなのだろうと思います。次回はまた別のつながりを書きます。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |