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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【緑について考えた連休】

2005.5.16 

中村桂子館長
 連休の一日、庭の草取りをすませて、本でも読もうかなぁと思っていたら、友人から電話がかかってきました。近所にある1200坪ほどの元屋敷。昭和の初めからのお庭で、みごとな緑なのだけれど相続税の代りに物納されたのだそうですが、このままだとまた樹は全部伐られてマンションが建ちそうな様子。なんとかこれを守りたいと運動をしているので、応援して欲しいという話です。
 早速現場へ行って、どこにどのように陳情するかという相談をしている方たちの仲間に入って話を聞かせていただきました。このところこういう話の多いこと多いこと。昨年「景観緑三法」が制定されて、日本の国を美しい国にして行こうという方向は出されているのです。それを読むと感激します。法律って面倒なもので、難しいことばっかり書いてあるもの。原則としてはそうですが、この法律は緑を大切にという気持の入っているもので私でも読めます。この法律については、官庁の方たちも、都市計画や建築の専門家も、すばらしいビジョンを語ってくれます。やっと日本も眼の前のお金の動きだけで事を判断せずに、美しさや緑の価値に眼を向けるようになったのだと嬉しくなります。ところが現実は、東京23区の中でも郊外でまだ武蔵野を思わせる緑が残っている世田谷区というところで、これまで以上に緑が伐られマンションが建つという現象が起きているのです。景気対策として最も簡単なのが箱物を作ること。都心に高層マンションが次々と建てられているのですから、長い年月をかけてでき上がった緑をつぶしてまで郊外にマンションを建てなくても住居の供給は十分なはずなのに。100年近くかけて育ってきたであろう樹木を伐り倒すという作業が毎日のようにあちこちで行われているのです。私の暮らす街のローカルな話で申し訳ありませんが、同じことが日本のあちこちで起きているのだろうと思って、ある休日の体験を書きました。緑の大切さは改めて言うまでもありませんが、意外に大きな樹を伐ることに何の痛みも感じないというのが、現代の感覚のようですね。もちろん、樹を活かすために伐るということはあってもよいわけですが。樹の持っている歴史を思わなければいけないのにと思います。
 人間の生命も粗雑に扱われがちな世の中ですが、生命を大切にとお説教しても意味がありません。そうではなく、たとえば樹を大切にという気持ちを育てることが、心を育てる基本になるはずです。思いがけない電話で本を読み損なってしまいましたが、緑を大切には大事なことなのでほんの少しでもそのお手伝いができたことをよしとしましょう。幸い明日もお休みですし。
 
 
 【中村桂子】


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