館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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起床6時〜6時半。部屋のカーテンを開けた時に、東山から朝日が昇ってくる季節になりました。季節の移り変わりは、風や花などさまざまなところで感じますが、京都に暮らすようになってからの楽しみの一つに朝日があります。毎日、時刻と場所が変わっていくのですが、朝起きてから出かけるまでの間に山の端から朝日が昇るのを見られるのがこの季節です。今朝(3月10日)は峰に赤味がさし始めたのが6時35分くらいでした。前にも書いたかもしれませんが、今住んでいる所が、古い地図で見るとちょうど清涼殿のあたりなのです。ということは、かの清少納言が“春はあけぼの”と言って眺めたのと同じ景色を見ていることになるわけです。残念ながら、山との間にたくさんのビルがあり、今もそれは増えているような気がしますし、近くにビルが建つと山が隠れてしまうので(すでに一部は隠れています)心配なのですが。自然の魅力は、年々歳々同じことをくり返しているようでありながら、常にどこか新しさを見せ、惹きつけるものを持っていることです。人を驚かすような変化をよしとして、それを求めてきたのが人工の世界であり、現代文明ですけれど、そろそろ静かにくり返すことの大切さを考えてもよい時ではないでしょうか。もちろん、自然は複雑でただくり返しているだけではありません。その中に変化を抱えこんでいます。むしろ、何が起きるかわからないところがある中に、あるきまりがあるから、そこに惹かれるということなのでしょう。そしてそのきまりを解くのはとても難しい。じっくり考えなければならない課題です。複雑さとその中にある約束事とのバランス。まさに生物学の研究はそこに魅力があるわけです。
【中村桂子】
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