館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【自然にニコニコ顔になる社会】
2005.3.1
先日、エッセイストで画家であり、いまや農園主の玉村豊男さんと対談する機会がありました。輸血で肝炎ウイルスに感染してしまったことなどもあり、都合から自然の中へ居を移し、次第に農の専門家になっていらした様子を伺い、本当に楽しい時でした。最初作ったのはジュース用トマト。ダンボールに詰めて、やっこらさ。計算してみたら、時給400円くらい。でも完熟でもぐと生で食べても美味しいので友人に送ると評判がよく、お礼に他の美味しいものが送られてきて、食生活がとても豊かになったそうです。お金では計算できない豊かさというわけです。そのお話の間、終始ニコニコ顔なのです。都会で暮らしていると、これほど自然で、一緒にいるのが楽しい笑顔に出会うことが少ないなあとつくづく思いました。今では時給の問題ではなく、作物を作っている過程の楽しさを覚えてしまったし、だんだん近所の人とのおつき合いもふえ、物々交換で豊かな生活ができているということでした。 会社や大学の会合などであまりニコニコしていたら、どうしたのと言われそうですが、食べものづくりの場にはニコニコ顔が合うでしょう。ニコニコしていれば健康にもなるし。事はよい方へとまわります。 最近の社会を見ているとこの反対の方へまわっているような気がします。その中では食も健康も“問題”になってしまうわけです。そして笑いは健康によいからとわざわざ、企画会社が笑いの場を作って人を集めているのです。それでお金が動き経済を活性化するのだから結構ということです。でも結局それはお金がものを言う社会になり・・・本当に欲しいのはおいしい食べものであり、心からの笑顔なのに、なんだか変ですね。歯車をよい方へまわしたら、皆が気楽に気持よく暮らせるのに。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |