館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【変るけれど変らない、変らないけれど変る】
2005.4.1
1990年に著した「生命のストラテジー」(ハヤカワ文庫)で、生命の基本は「矛盾にみちたダイナミズム」であると書きましたし、今もそう思っています。ゲノム(DNA)を見ると、二重らせんという構造は、同じものを複製できると同時にある確率で変ったものを生み出させるというみごとという他ない性質を持っています。変らないけれど変る、変るけれど変らないのです。私がDNAという言葉を聞いた時には、ここで述べた性質も含めて、それが持っている何ともいえぬみごとさをあれこれ思い浮かべることになります。しかもそれがいかにも生きものっぽいので、ゲノム(DNA)を基本にして生きものを考えていく仕事が面白いのです。ところがどうも、多くの方は、DNAと聞いた時、遺伝子を思い浮かべ、しかも遺伝子を性質をきめてしまうという動きのないものとして受けとめているらしいということがわかってきました。先日も、科学哲学の専門家から、“生きるということを考えるのにDNAを持ち出すなんてとんでもないことだ”という批判をいただきました。DNAなんて単なる物質じゃないかということでしょう。まさにその通りです。単なる物質です。でもそれが細胞の中に入った時の動きはまさに「生きる」と重なるのです。私は「生きる」を物質で説明しようとしているのではありません。DNAの動き、つまり“事”が面白い。DNAを“モノ”としてではなく“コト” として見ていくのです。今年もBRHは生きものと同じように「変らないけれど変る、変るけれど変らない」で行きます。たくさんのコメントをお願いします。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |