館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
バックナンバー
書かれたものを読んでいると、心に残る言葉に出会います。今日は、「ねえ、レジェー、皆自分たちのしたいことをちょっとやりすぎると、君は思わないかい」です。作曲家エリック・サティが友人につぶやいた言葉として新井満さんが紹介していらっしゃいました。サティの音楽は、ちょっと遠慮がちで、やりすぎないようにというところ、引き算できるものは引きましたというところが感じられるのは生きる基本にそんな気持ちがあったからかと納得しました。したいことがあってそれを思いきりやるときこそ、生きる実感があるわけですから、生きるとはそういうことでしょう。でもやりすぎはいけない。このバランスをいかに上手にとるかということが大切だと思うのです。生命科学研究の進め方にも、これが必要でしょう。とくにプロジェクトのように眼の前の目標だけに集中すると、一歩引いて全体を考えた時に一番大切なことは何かが見えなくなる危険があるように思います。とくに対象が人間も含めた生きものですから、やりたいことは何でもやりましょうとなるのは恐いと感じます。日常生活でも便利に便利にとした結果、外の自然だけでなく、人間自身も壊れてきているようで気になります。“ちょっとやりすぎではないかな”というチェックをあちこちでしてみたいものです。
【中村桂子】
※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。
|
中村桂子の「ちょっと一言」最新号へ