館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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学力低下が話題になっています。文科省が打ち出した“ゆとり教育”がそれにつながっているという非難があり、なんとかしようとする動きがあるのは当然でしょう。誰もが教育には関心をもちますから。これまた当然のこととしてその動きはさまざまなですが、大別して二つになります。一つは公的な動き、建前的な動き。もう一つは個別に考えて現場対応していく動き。そして、前者はどうしても制度をどうにかしようということになります。ところが、さまざまな審議会など、現場から離れたところで議論がなされる場合が多いこともあって、制度というのは、いじってもいじっても必ず問題が生まれ、少しも解決にならないというのが実感です。後者の現場対応は、小さな所で小さく動くことになりますから全体に影響を与えるまでに時間がかかりますが、民間からの校長先生の採用など、少しずつ事が解決していくのは確かで、何より現場での熱気が期待をもたせます。ところで、学力低下に対する建前的な動きとして、えーっと思う例に出会いました。私の東京での居住地、世田谷区の教育委員会が知恵を絞ったあげくの提案です。ゆとり教育の一つとして行われたのが週休五日制。これで授業時間が減ったことが問題だと考え、これをなんとか取り戻そうというところから出発したのですが、平日に授業時間をふやすと課外活動に影響してしまうので無理とわかりました。そこで教育委員会の方々が素晴らしいことを思いつきました。授業時間50分、休み時間10分となっているのを、授業時間52分、休み時間8分にするというのです! たかが2分と侮ってはいけません。1日6時間授業とすれば、12分、1週間でちょうど1時間になります。一年にすれば40時間近く。40時間あれば、どれほどたくさんのことが学べることでしょう。確かに計算上はその通りです。けれどもなんだか数字の遊びにも聞こえてきます。それより休み時間10分にとっての2分は1/5にあたり、これが減ったためにゆっくり手洗いに行くことができなくなったりする影響の方が大きくないかしらと、子どもだった頃を思い出しながら考えています。教育委員会からの提案なので実施するかどうかを決めるのは各学校だということですが、こんなことを時間をかけて議論している会合を思い浮かべただけで・・・。でもこういうタイプのことってとても多いように思います。そのためにあちこちでたくさんの会議が開かれていて、皆で忙しい忙しいと走りまわっているのです。もう少し基本に戻って考えることをした方がよいと思うのですが。
今日は、ちょっと時間不足で具体例をあげるところまで行きませんでしたが、現場対応の活動はたくさん行われています。私は個人的にはこれが好き。広く考えれば、生命誌研究館もその一つのつもりです。小さいけれど、理念がはっきりしていて、具体的。日本の将来はこのような活動が作りあげていくのだと思います。いい加減で制度いじりを止めて、現場の声に基づいた具体的活動を尊重する社会にした方がよいと思うのですが。
【中村桂子】
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