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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【天国にいたい】

2002.12.1 

中村桂子館長
 先日、東大名誉教授で、哲学・倫理学・美学が御専門の今道友信先生の“ダンテの神曲講義”を伺いました。「碩学」というちょっと死語化している言葉そのものの先生にはこれまでも教えられることばかりだったのですが、今回も刺激を受けっぱなしでした。
 若い頃ダンテの神曲に惹かれ、卒業研究の対象にしたいと考えていらしたのに、先生からアリストテレスから勉強するようにと言われ、それに従われた。でもここで「神曲」を諦めないところが、今道先生です。土曜日の夜に独りで60年間読み続けて来られたというのです。それにしてもびっくり。先生のダンテの神曲と生命誌が「愛」でつながったのです(何を聞いても生命誌につながるのが、私の常といえばそうなのですが、今度は本格的でした)。それについては、もう少し考えがまとまってから書くことにします。今回はそこで話題になった天国の話。昭和電工名誉会長の鈴木治雄さん(この方もintelligenceの塊です)が、天国は何もしないでのんびり暮らせるよいところと言われるけれど、それは却って辛い。だから天国ってあんまり行きたくないところだと思っていたが、今道先生が読みといてくれた天国は素晴らしいのでぜひ行きたくなったとおっしゃいました。それは、“楽しい仕事がたくさんあるところ”。なるほど。今年のノーベル化学賞受賞者田中耕一さんが、会社から重役にと言われても固辞して「エンジニアとして自分のやりたいことをやれるこの状態でいたい」と言い続けているのは、「天国にいたい」という主張なんだなと思いました。先日訪れた伊自良村でも楽しそうに農業をしている方たちにお眼にかかりましたし。天国へ行くのって難しいようでもあるけれど、その気になれば・・・・・。


【中村桂子】


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