館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【生命誌について】
2000.12.15
「さまざまな事柄と切り結ぶという感覚はその通りだと思うけれど、研究者も思想家も基本は日常生活者なので、私だったら4つのリングの中の「生物・生命に関わる活動をしている人」というリングはなくして「活動する人」という大きな枠にする。」という御意見でした。おっしゃりたいことはよくわかります。けれどもここが大事なのですけれど、「生命誌」はあくまでも、生物や生命現象の研究を通して自然を知る活動を基本に人間や社会を見ていきます。そこから見ると幸い、多くのこととの関連が生まれる…時には生まれすぎて頭の中の整理が大変になるくらい…ので、思想も生活もその切り口で見る試みをして下さいと提案しているわけです。ですから、私たちはもちろん日常生活者ではありますけれど、同時に常に「生物や生命現象に関わる活動をしている人」でなければ専門家としての存在価値がなくなってしまいますし、そこが拠点です。何事もそうだと思うのですが、広いことは大事ですけれど、一方であくまでもここという拠点も大事。やはり生命誌は生きもの、生命に根をおろしていきます。これが何ともいえず魅力的ですし、20世紀はどうも人間が生きものであることを忘れたかのような社会を作ってしまったので、もう一度このあたりまえのところに戻って人間観や社会のしくみを作っていく21世紀にしたいと思っています。 ところで、話はがらりと変わりますが、なぜか今年は4冊翻訳しました。本当は翻訳でなく自分のものを書く方が大事なのですが、読んで面白かったものがあったものですから(自分の考えと同じようなところと違うところが混っている本を読むのは、一人で考えているだけの時と違って面白いものです。こういう翻訳は息抜きになって楽しいのでつい)。 N.ウェイド「DNAのらせんはなぜからまらないのか」(翔永社) L.マーギュリス「共生生命体の30億年」(草思社) R.ポラック「ゲノムの時計 脳の時計」(早川書房) M.リドレー「ゲノムが語る23の物語」(紀伊国屋) それぞれの本については、次に紹介します。最初の本はこの一年ですでに古さを感じますが、後の二冊は、ゲノムに関連した興味深いものでした。 |