館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
バックナンバー
【2001年1月1日に思う】
2001.1.1
年の始めにはやはり一年の計をたてなければいけませんね。生命科学研究は、多くの研究者がおっしゃっているように、ゲノム解析を基本に、遺伝子やタンパク質や細胞に関するデータをどんどん出し、多くの成果が得られるでしょう。脳の研究も進むでしょう。今までわからなかったことがわかるようになるのは確かです。でも、それが私たち " ふつうの人 " が、 " 生きてるってこういうことなのか " とわかるところにどれだけつながるかとなると、恐らくとても難しいのではないかと思います。これまでのように一つの遺伝子が一つの現象を説明するというような話ではなく、たくさんの遺伝子が体のあちらこちらで、はたらいていたり、はたらかなかったりする様子をすべて調べあげてそのネットワークを解明していくのですから。たしかに、山の端からのぼる朝日からエネルギーを受けとり、海に沈む夕日を見て感傷的になるという心の動きは皆んなが持っているね、ということの裏には、誰しもの体内のあちこちで起きている遺伝子やその他諸々の物質のはたらきがあることは確かで、その複雑なネットワークも解明されていくでしょう。 でもそれが「元気を出そう」とか、「さびしいわね」という私たちの日常の身体感覚と言葉による表現とにどうつながるかと考えると、恐らく無理だろうと思うのです。このギャップを埋める方法は二つあると思います。 一つは、コンピュータを駆使して膨大なデータを感覚と言語につながるところまで整理すること、もう一つは、分析的科学とは別の、全体をパッとつかむ方法論を探ることです。どちらもすでに始められていますが、まだ今のところ見通しはたっていません。 生命誌は、分析還元の科学を日常の身体感覚と言語につなぐことをめざして始めたのですから、まさにここに生命誌のテーマがあります。もっとも、今のところモヤモヤもいいところです。実は20年前、こんなモヤモヤを感じて、その中から生命誌が見えてきました。今度のモヤモヤはどうなるのか。モヤモヤしている時は不安定ですが、一面何かを求める元気も出てきます。今年は、このもどかしさと活気が混じり合った状態を楽しみながら、皆さまの知恵をお借りしていくことにします。昨年末に作ったロゴも何かを探すための一つです。くり返しますが、これもまだまとまったものではありません。少しずつ整理していく一つのステップです。よろしくお願いいたします。 |