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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2025.04.15

生きものたちの方が賢いのでは

4月最初の土・日に開かれることになっている「さくらまつり」です。急に夏日に近くなったかと思うとまた冬へ逆戻りというおかしな天候の中でも、花はみごとに咲き、近隣の人で賑わいました。成城という街ができてから100年。桜並木もそれだけの歴史を持っており、どの樹も立派です。時々、寿命が来て植え替えられた若い樹も混じっているのが、時の経過を感じさせてくれます。

道の両側に並んだ商店街の出店と並んだ自治会のコーナーで、サクラと一緒に植えられたヒマラヤスギの中で、伐らざるを得なかった一本の年輪を見せていただきました。その一ヶ所が黒く炭化している……見ると、1945年なのです。空襲の記録です。この年の5月には私の家も全焼。疎開をしていましたので私自身は空襲を体験してはいませんが、子ども時代の写真がたまたま叔母のところにあった一枚だけになってしまうなど、それまでの暮らしをすべて持って行かれた悲しさは今も残っています。

ヒマラヤスギも戦火に会いながら、いのちをつなぎ、その後も年輪を重ねてきたのです。原爆投下後の広島で、草も生えないだろうという予想に反して緑が蘇った時の驚きを思い出します。ヒマラヤスギの年輪やサクラの花に向き合いながら、爆弾を落とす人間ではなく、多様な生きものたちの一つとして生きていく道の方が、強く賢い生き方だとしみじみ思いました。

そんな思いでいるところへ届けられた『2050東京戦略新聞』(生成AIを活用した100年後の予測)には、こんな文言が並んでいました。「無尽蔵エネルギー」、「天気を操る」、「労働総ロボット時代」、「超人類スポーツ大会」……これぞ素晴らしい未来という予測はまだまだ続きます。技術の力で何でもできると信じ、謙虚さの全く感じられないこのような予測(AIが出してくれた有難い予測)に基づいて未来に向かうのは賢い選択ではないでしょうというのが私の判断ですが。どうお思いですか。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶