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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2024.12.17

小さな積み重ねを大切に

今年最後の「一言」になりました。この一年間を思い起こすと、「生命誌絵巻」が大活躍してくれた年とまとめられます。別の言葉で言うなら、「私たち生きものの中の私」という感覚を共有して下さる方が増えたと実感する一年でした。異常気象や戦争はもちろん、政治や経済などが人間を大事にしているとは思えない方向に動いていると感じ、原点を考えようとする方が多くなったのではないでしょうか。社会のありようを変えていくには……と考えると難しくて何もできません。でも、日常の小さなことについて、それぞれが提案し、行動することはできます。考え方の違いは話し合っていけばよいのですから。

普段、お台所でしたり考えたりしている小さなことを二つあげます。

まずはゴミ処理です。 野菜屑、お茶の葉、魚の骨、タマゴの殻などの台所ゴミを庭にある落ち葉溜めに2,3日に一回ずつ捨てに行きます。捨てる場所をつくるために落ち葉を持ち上げると、そこにはミミズがわんさといます。土の中で気持ちよく過ごしていたのに表に引き出されたミミズたちは大騒ぎ、あっという間に中に潜り込みます。その素早さが面白くてまた掘り起こす。暫くミミズと遊びます。やはり生ゴミは燃やさずに土に返すのがいい。ミミズと遊びながら思います。ベランダに置けるコンポストもありますから、皆で土づくりをすると何かが変わりそうな気がします。

もう一つはプラスチックです。テレビのお料理番組で、ハンバーグをつくるためにひき肉と他の材料を混ぜる時、ビニールの手袋を使っていました。よく使いますね。おにぎりをつくる時もサランラップを使います。ネトネトしたり、熱かったりするからというだけでなく、衛生上ということのようですが、これが気になるのです。お料理をする時、それぞれの材料を手で感じとりたいと思います。ひき肉の感触、ご飯粒の感じが大事で、それがお料理のでき上がりにつながると思うのです。お母さんのおにぎりには、お母さんの手の味も入っているというように。手はきちんと洗えば大丈夫。お料理は手でしませんかと思います。しかもこの積み重ねが、石油の大量利用、CO2の排出、マイクロプラスチックによる汚染などにつながります。

これって頭でなく感じで受け止めることであり、私の場合、絵巻がこの感覚につながっています。そこで、今年の絵巻の活躍が「小さな積み重ね」につながりますように、来年につながりますようにと願っています。少し早いですが、よいお年をお迎え下さいませ。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶