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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2023.10.17

人間は戦争が好き・・・言葉に気を付けましょう

朝、ラヂオでニュースを聞いていましたら、森本毅郎さんがある識者の名前をあげ(うっかりきちんと聞いていませんでした)、こう語りました。「○○さんが、人間は戦争が好きなんですよと言っておられましたが、どうもそのようですね」。パレスチナ自治区のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃から始まった武力衝突についてのニュースの後でした。ウクライナ問題だけでもうんざりしているところへ、中東での武力抗争ですからこうおっしゃりたくなったのでしょう。

「生命誌」は言葉を大事にしています。生命と言いっ放しにせずに、「生きているとはどういうことだろう」と言いながら考えます。ここから例えば「生る」という言葉が浮かび上がり、教育学の大田堯先生の「実が生るように人間も生っていく。それを助けるのが教育です」とおっしゃる言葉と重なっていきました。

「人間」という言葉もいい加減に使って欲しくありません。「人間は戦争が好き」。本当ですか。周りの人に聞いてみましたが、戦争を好きという人はいませんでした。最近明らかになりつつある生きものとしての人間像は、武力での闘争には向いていない方向に進化してきた様相を見せています。古代人は野蛮というイメージは間違いで、縄文人は穏やかな日々を送っていたことが分かってきました。

戦争が好きなのは、権力者という限られた人です。権力が本来の人間性を失わせているのです。ですから、権力という、とてもとても嫌な力から自由な社会をつくることは、生命誌の目標の一つです。小さな争いはあっても、戦争というばかばかしいとしか言えない行為のない社会。人間はそれを求めていると思いますし、賢さはそのために与えられているのではないでしょうか。「戦争が好きな人間はいません」。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶