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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2022.08.02

日本原産作物ご存知ですか

ウクライナの小麦輸出ができなくなり、アフリカを中心に食糧危機が深刻化しています。戦争が終わっても、現在のような一律化、分業化した農業のやり方ではいずれ地球全体が食糧危機に見舞われるでしょう。農業がその地域の自然を活かした生産と流通を行わず、一律化した市場原理で動いていたのでは、将来は明るくないとは誰にも分かっていることです。

日本の農業も、新しい流れの中で考えていかなければなりません。縄文時代の狩猟採集から弥生の農業社会へという移行(もっともここは今、これほど明確に分かれるものではないことが明らかとなっていますが)という農業の原点に戻って、どのような農業をする社会にしていくか。生命誌としては、地球生態系の中での人間の位置づけが分かってきた現在の最先端知識を生かした新しい農業を考えてみることが大事です。「私たち生きものの中の私」として。

そこで日本の作物を見てみましたら、日本原産のものはダイズ、ジネンジョ、ミツバ、ワサビ、ナシだとありました。ダイズは味噌、醤油、お豆腐など和食のタンパク源と調味に欠かせない大事な作物です。これからも植物タンパク質として最も注目を集めています。自然薯もいいですね。生でサラダもいいし、トロロも好きです。この仲間のヤムイモは、以前訪れていたナイジェリアでは主食でした。モチモチのヤムイモにカレーをかけるとおいしい。ビタミンも豊富で、優良食品です。次はミツバです。シャブシャブの時にさっと湯がいてポン酢でいただくのはやはりミツバでしょうとは思いますが、青ものは他にもっと欲しいですね。ワサビはお寿司、おそば……ここぞという時にまさにサビを効かせますので和食には大事ですが、大量生産するものではありません。そういえばワサビはきれいな水がないと育ちませんから、日本列島の象徴としてはきれいな水もあるということでしょう。最後のナシはありがたい。今や品種改良されて、大粒で甘味たっぷりの品種がたくさんありますね。私は明治時代に出てきたという小粒で固い長十郎が好きなのですが、今や見かけることはほとんどなくなりました。果物の品種改良はすごいですね。とくに日本は。ナシは持統天皇が食を豊かにするためにナシ、クリ、カブを植えなさいという詔を出した記録があるそうです。以上ですが、やはりこれだけではちょっとですね。実は他の資料にアズキもあったとありましたので、調べるともう少し増えるかもしれませんね。ご存知の方お教えください。

その後、まずイネに始まりさまざまな作物が入ってきて今のヴァラエティに富んだお料理を楽しむ食卓があるわけです。スーパーマーケットに並んでいるものの多くが、江戸時代以降に入ってきており、作物とその品種改良の歴史は面白いです。今をあたりまえと思わずに歴史に学びながら、これからの農業を考えてみるのも楽しいかなと思っています。
 

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶