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Special Story

虫入り琥珀の世界

古代生物はよみがえるか?:城田安幸

もう1年近くもたつというのに、相変わらず『ジュラシック・パーク』の人気はおとろえない。新しいゲームソフトが発売され、秋には日本でビデオやLDが発売される。映画をご覧になった方はおわかりだと思うが、話のあらすじは、琥珀の中の吸血昆虫から恐竜の遺伝子DNAを取り出し現生のトカゲやカエルの遺伝子と組み合わせ、絶滅した恐竜たちを復活させテーマパークを作る試みが失敗に終わるというものである。

映画の上映以来、マスコミや一般の人々からの「古代生物の復活は可能ですか?」という問い合わせが私のところに相次いでいる。というのも、私が代表を務める「化石生物を現在に蘇らせるプロジェクト」が、「3000万年前の琥珀中のハエから遺伝子ホメオボックスを世界で初めて抽出することに成功」したことを全国紙が大きく報道していたからである。

1990年、私たちは弘前大学、大阪大学など4大学6人の研究者でプロジェクトをスタートさせた。私たちがこのプロジェクトを発足させる契機になったのは、ほんの少しのDNAがあればいくらにでも増幅できるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法が発明されたからであった。もし古代のDNAが一つでも残っていれば、PCR法で増幅し、その遺伝子を現在の生物に取り入れることは理論的にも技術的にも不可能ではない。かつては、「DNAは分解されやすい」と信じられ、数千年ものあいだ残っている、などとは誰も考えさえしなかった。

しかし、1984年に日系人の分子生物学者ラッセル・ヒグチたちがシマウマによく似た絶滅哺乳類動物クワッガの剥製標本からDNAを抽出し、その塩基配列の決定に成功した。翌年にはスウェーデンの若き医学者スヴァンテ・ペーボが2400年前のエジプトの子供のミイラからDNAを抽出することに成功した。続いてペーボたちはPCR法を用いて7000年前の古代人の脳からミトコンドリアDNAを抽出することに成功した。1989年にはアメリカ・ウェイン州立大学(ミシガン州)エドワード・ゴレンバーグが1600万年前のモクレンの葉の化石からDNAを抽出し、日本の宝来聡国立 遺伝学研究所助教授たちも6000年前の人の頭骨からDNAを抽出し、その塩基配列を決定した。

1994年現在得られいるもっとも古いDNAは1億2000万年前のゾウムシからのものである。コンピュータ・ネットワークの一つインターネットにもAncient-DNAというフォーラムが1993年の10月に結成され、世界中の研究者間の連絡をとっている。そのものずばり『ANCIENT DNA』と題した著書が、ドイツの人類学者ヘルマンとハンマーの編集で、今年出版された。もう締め切りは過ぎてしまったが、イギリス・ロンドンの自然史博物館では、琥珀の中の昆虫からDNAを抽出できるポストドクターの研究員を募集していた。世界中の主要な大学や研究機関で、古代のDNAを取り出す仕事が始まりだしたのだ!

化石生物から遺伝子を取り出し現生の生物の中でその遺伝子をはたらかせる仕事を最初にするのは誰になるのか?私たちの夢はふくらむばかりである。ただし、それを行ってもよいのかどうかという倫理的な問題は『ジュラシック・パーク』と同じように残されたままであるが・・・・。

①城田助教授が遺伝子DNAを抽出して解析に成功した昆虫化石ペリスケリディーテ。ハエの一種で、約3000万年前のドミニカ産の琥珀に閉じ込められていた。遺伝子は形づくりにかかわるホメオボックスとみられている
(写真=城田安幸)

②ほぼ完全な姿をとどめている琥珀の中のガ。鱗翔目ヒロズコガ科の一種で、白亜紀後期(約8500万年前)の地層に由来する
(写真=城田安幸)

(しろた・やすゆき/弘前大学生物環境管理講座助教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

 

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