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宇宙・生命・進化

野田春彦

宇宙や星の進化と生物の進化はまったく別の現象だと思っていた。しかしよく考えてみると、宇宙の物質系の一部分が生物界であるから、まったく別のはずはない。

ビッグバン以来膨張を続けている宇宙の中でも、局部的には物質が集合して星雲が、その中には星が形成される。宇宙全体のエントロピーは増大を続けるが、局部的にはエントロピーの減少に相当することが起こる。

地球上には約1040個の炭素原子が存在する。これは宇宙全体の素粒子の数約1080個に比べて非常に小さい。それでも107種程度の複雑な生物個体の集まりを形成できる。

生物の個体を形成する物質の行動は特別な制約を受ける。個体という原子集団の一部の行動が不適切だと、淘汰によって個体という統一行動が不可能になる。生物界以外ではこんな制約はない。遺伝の機構を備えて複製することも原子の行動を一定の範囲に制限することである。

原子の集団の行動に制限が加われば当然見かけの平衡状態も変化する。物質の状態の大部分が制限のために実現不可能になれば、許される部分は実現の確率が大きくなり、生命現象の出現の確率も小さくないかもしれない。どのような原子の集団ならその効果が期待できるだろうか。星の場合には太陽の何倍ならどんな星になり、何倍ならブラックホールになると議論できるが、生物界ではまだできない。

これが議論できるようになれば、無機物質の中の生命現象、つまり生命の起源を物質的な基礎から考えられるし、進化の経路についても定量的な議論ができるかもしれない、と夢を見ている。

 

(のだ・はるひこ/創価大学工学部生物工学科教授)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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