Gallery
生き物さまざまな表現
崔 在銀さんは、韓国ソウル生まれの国際的なアーティストです。
今回のブレセンテーションでは「co-existence」(共生)と題する作品を展示してもらう予定でしたが、会場の都合で実現しませんでした。
崔さんも、私たちBRHの良き理解者です。
会場でお見せできないかわりに、誌上でそのユニークな作品と彼女の独特の生命観を紹介しましょう。
①World Underground Project (1986~1990,韓国/慶州)
②③Homage to Mozart(1991,ギャラリー小柳,東京)
私は韓国・ソウルで生まれて、23歳の時学生として日本に来ました。生け花の世界にひかれ翌年、草月流に入門したのです。生命を切りとって、それを美的に構築していく、それが形式として受け継がれていく、そういう文化にとても興味を感じました。切るとは命を断つことだけれど、生け花の世界はそれが新しい命を生み出すことになる。死ぬということが実は誕生だということがとても面白かったのです。
Recycle Art Pavilion
④1993(ライトアップ,韓国/大田)
85年に草月会館の中の草月プラザで「土」という個展をやりました。階段状になっている庭園(イサム・ノグチ設計)に黒土13トンを入れ、絹糸草というものすごく細くて成長の早い植物の種をまいたのです。2週間ぐらいのあいだに、芽が出てやがて11センチぐらいにまで伸び、黒土が青々とした草の絨毯に変わっていく。草の伸び具合、時間帯による光の射し方によって、庭の色彩が黒、赤、 緑などさまざまに変わるのです。それによって、時間を感じることがこの作品のテーマでした。絹糸草は、世の中で一番哀しそうなものを探した結果出会った植物です。 弱々しいものほど、逆に生命力が強いでしょう。そう思いませんか。
⑤あらゆる生(1991,佐賀県)
次の年から、福井の岩野平三郎氏が開発した特殊な紙を日本、韓国、イタリア、ナイロビなど世界10ヵ国の地下に埋めるプロジェクトを始めました。3~4年たって地下から掘りだし、空気にあててバクテリアによる腐食の変化を見る。これを構成して、一つのアートに仕上げるのです(作品1)。
私にとって地下=土は「純自然」だと思います。そこは、物、時間、空間すべての塊であり、生成の場。地上は人間が存在する限り、自然の破壊は避けられないところがある。地上は人工の場とも言えると思います。この地上と地下との関係、between ground and undergroundが、私の永遠のテーマ。地上と地下とは、プラスとマイナス、表と裏、光と影のように、お互いに正反対の要素(意味)をもちながらも相互補完的な関係にあるのではないでしょうか。
⑥⑦Synchronous
(1990,京束教会韓国/ソウル,6は内部)
地下からあげてきた和紙の変化を承るとき、自分自身とても感動するのです。土は生成と誕生の場として、どのくらいの可能性があるのか、埋めた一枚一枚の紙にどのような微生物がどのくらいついて変化に寄与してくれるのか、そういうことを確かめながら、美の世界をつくれれば最高だと思います。
私にとって微生物そのものが表現の素材。自分の美を産出してくれる微生物たちはいったいどんな姿、形をしているのだろう、それを知りたくて、昨年いきなりなんの面識もない東大先端科学技術研究所の軽部(征夫)先生を訪れて、いろんな国の土を顕微鏡でのぞかせていただいたんです。とても面白かったです。人間にとって見えている世界はほんのごく一部なんですね。見えないところは「無限」です。
⑧正・反・合(1990,Duson Gallery,韓国/ソウル)
(撮影=1,2,3武藤滋生/4,5桜井浩子/6,7,8朱明徳)
軽部先生が、今の時代は芸術家も科学者も一緒に仕事をしていく時代である、というようなことをおっしゃっていたのがとても印象的でした。BRHのサロンには2回ほどお邪魔させていただきましたが、イマジネーションで動いている私に比べると、科学者の人たちの生命観はとても現実的でリアルですね。それがどのように私の作品へとつながっていくかわからないけど、これからもできるだけ参加させていただきたいと思っています。
(さい・ざいぎん / アーティスト)
雀さんのスタジオは、東京目黒区大岡山の坂の上です。銀色に輝くバンチングメタル張りの3階建ての建物。大地に和紙を埋め、土中のバクテリアの作用によって、和紙の上にさまざまな模様が描き出されるという作品の一部が展示されていました。黄色く変色した和紙の表面に描き出されたバクテリアの腐食模様は、どこか高僧の書いた書を思わせます。来年は、韓国・大田で万国博覧会が開かれますが、その政府館を担当するのが崖さん。環境問題への問いかけとして、世界中から集めた空ピンを使ったおよそ1000坪のパビリオンをつくるそうです。
(編集部)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。