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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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そして人間

2019年11月1日

三木 綾乃

表現日記を書こうと机に向かっている時、緒方貞子さんの訃報に接しました。お年を召しておられたとはいえ、日本が世界に誇れるかたを失ったことは惜しまれます。国連難民高等弁務官として活躍されていた時期は私もお国に近い職場にいたので、本当に世界に人々のために尽くしておられる緒方さんの行動を拝見しては、同国人であることを感謝しながらも、砂つぶほども及ばない自分にがっかりしたものです。

季刊生命誌100号の中村館長のサイエンティストライブラリーのインタビューで、高校生の時、外交官になりたいと考えたことがあると話されました。実は私も、高校時代の憧れは国際労働機関(ILO)で活躍されていた高橋展子さん。『ジュネーブ日記』、『デンマーク日記』を愛読し、いつか国際的な仕事に就きたいと、背伸びをしてペンギンのペーパーバックスをカバンに忍ばせていましたが、通学電車では寝てばかりの夢の中で現実にはほど遠かったです。

大学進学の頃に人間工学、人間科学、人間生物学などという学部が次々新設され、人間を科学で見られるなら、机上の学問でなく実践のある理科系にと生物学を選びました。しかし当時は、細胞を使わずにDNAを増やすPCR技術さえまだ一般的でなく、実験のためには沢山の生きものを集めて「すりつぶす」ところからというのが現実で、先の見えない研究に生命を消費する意気地がなく、結局、コンピューターを使う方法にしました。今では100万人規模のゲノム情報が解析され、古代人のゲノムも次々と明らかになっています。人が作ったデータですので使い方には工夫がいりますが、ゲノムから人間を考える可能性が広がりワクワクする時代を迎えています。

生命誌研究館のビジョンは、「生命論的世界観に基づく、ひとりひとりが幸せに生きる心豊かな社会をつくる」です。季刊「生命誌」のテーマを「生きもののつながりの中の人間」として、今改めて「人間とは何か」という問いに向かおうとしています。国境を越え、人類の幸せに尽くした偉大な先輩方の宿題を胸に、生命誌らしい人間観を作りたいと思います。

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