展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【あなたの人生、聞かせて下さい。】
2016年9月1日
これまでサイエンティスト・ライブラリーで、私が担当としてお話を伺った先生のご年齢を単純に足し合わせるだけでも、全部で400年超の人生のお話を伺ったことになります。大先輩たちの人生はなかなか手強く、歯が立たないのは当然。自分が知らない人生の先は必死で想像し、最終的には人生の先輩である村田チーフ・中村館長に補ってもらい、大西カメラマンの写真によって味わいを深めてもらい、400年分の人生をぎゅうぎゅう詰め込んで作品にしてきました。
サイエンスを志す若い方がこの記事を参考にされることは多いことと思います。まだ少ない人数ですが、6名のお話を伺ってきて分かってきたのは「科学者として成功する人生のモデルケース」は残念ながら無いということです。同じ時代を生きつつも人それぞれ、偶然や興味によって色々な方向へと成長していきます。一人一人が「物語の詰まった身体」であり、単純にモデル化することを許さない固有の経験と知恵の固まりだと感じさせられます。
僭越ながら、この手強い先輩達の人生の一つ一つを見据えながら、他者の視点を加えた物語として紡ぎ出すことで初めて見えてくるものがあるのだとつくづく思います。それは科学の面白さプラス「人生」の面白さです。サイエンティストに直接インタビューして話を聞き、物語として編むことができる人の数は限られていますが、世の中のどんな人にも物語が詰まっているということに気付きました。世間では「成功した人」や「有名人」の人生に興味が集まりがちですが、身近な人の人生もやはり固有の経験と知恵の固まりに違いありません。そんな膨大な情報を持つ人たちが同時に生きている世界ってすごいと思ってしまいます。
さて季刊「生命誌」90号のサイエンティスト・ライブラリーは九州大学の矢原徹一先生です。実は植物生態学の大家として、私は学生時代から尊敬していた先生です。家の前の川で毎日生きものと遊んでいた男の子が、地球の未来を担う科学者として新しい学問づくりに挑戦する物語です。生きものへの思いを貫く先生の人生をどうぞお楽しみください。