展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【「ゆらぐ」を考える】
2016年5月2日
みなさま季刊「生命誌」88号はお読みいただけましたでしょうか? 2003年の「愛づる」から毎年動詞で考えてきた季刊誌のテーマ、今年は「ゆらぐ」です。テーマを決める時は「生きている」を考える切り口となり、そこからさまざまな研究、人がつながるような言葉を選びたいと、中村館長も含め表現を通して生きものを考えるセクター全員で候補を出します。「ゆらぐ」を選ぶ時はみんなでだいぶ悩みました。分子、細胞という小さな視点で見ると生きものはいつもゆらいでいます。しかし、生きものだけじゃなく物質を細かく見ればみんなゆらいでいる。生きものはむしろゆらぎを内包しながらも、個体としては一定の秩序を保つことができる、それこそ生きものの特徴なのでは? という議論の末、ゆらぎながらも、ゆらぎ続けるだけじゃない、しなやかにしたたかに続く生きものの多様な面を「ゆらぐ」を切り口に考えていくことにしました。
私は88号ではリサーチ記事「腸の活発な新陳代謝を支える幹細胞とそのニッチ」の編集を担当しました。私たちのからだのさまざまな組織に存在し、新陳代謝を支える組織幹細胞は、従来、厳格なヒエラルキーの頂点にあると考えられていました。この記事では環境の変化に応じてヒエラルキーが変化する柔軟な腸管上皮幹細胞のふるまいと、それを支えるニッチの実態を明らかにした研究を紹介しています。きっちり決まりきっておらず、ゆらぎがあることで、緊急事態に対応できる頑健さが生まれる。機械とは違う生きもののしなやかなしくみを実感することができる研究だと私は感じました。そしてはたらきもので寿命の短い腸の細胞に感謝を伝えたくなりました。みなさまも記事を読んで感じたことや考えたこと、疑問などを是非「生命誌の広場」にお寄せください! また、季刊「生命誌」Facebookページでは私たちの制作過程をお届けしております。たくさんの方と一緒に「ゆらぐ」を通して生きものを考え、語りあえると嬉しいです。