展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【形がいっぱい】
2014年11月17日
先日、喫茶店で1人でお茶を飲んでいると隣のテーブルの人が「今年ももう終わりかぁ」と言っていました。まだ、1ヶ月以上あるじゃない! と心の中で反論しつつも、一緒に年の瀬ムードを共有してしみじみしてしまいました。(赤の他人なのに盗み聞きしてすみません。)年の始めは、あれもやろう、これもやろうと妄想するのに、気がつくと時間がすぎて、1年終わってしまっていた・・・ということが私のありがちパターンですが、今年は「来週死ぬかもしれない」と自分に定期的に言い聞かせながら生活したので例年より達成できたことが多いです。
達成できたことの1つは、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(香川県)に行ったことです。大阪からは少し距離がありますが、せっかく関西に住んでいるのだから行かなきゃもったいないとバスと電車に揺られること5時間、行って本当によかったです。猪熊さんといえば、三越の包装紙「華ひらく」や上野駅の改札上の絵「自由」が有名かと思いますが、具象から抽象までさまざまなスタイルの絵を描かれており、私が見た企画展は晩年の抽象的な作品を集めた「形がいっぱい」展。○、▲、□をはじめ、なんだかよくわからないギザギザやグリグリなどさまざまな形がそれぞれの絵の中にめいっぱい描かれているのですが、見ていて心地よさを感じる不思議な感覚を味わいました。キュレーターズトークで作品解説を聞いたことで、不思議な心地よさの謎が解けました。猪熊さんが絵を描く時に、大切にしていたのが「バランス」、さまざまな形が好き勝手に描いてあるように見えて、何の形をどこにおくのが美しいかとことん考えつくされて描かれているとのこと。そして、企画展の作品群の中でも比較的初期の作品は□なら□でのみを集めて描いているのに、より晩年になるほどさまざまな形で構成されていくようになっている。複雑な要素を組み合わせながら、いかに全体としてバランスを保ち作品に仕上げるか、美しいとはどういうことか考え続け、挑戦をし続けていたことも、90歳で亡くなる直前まで生涯ずっと絵を描くことができた1つの大切な要素だったと知りました。科学はどんな問いをもつかが大切、館長からいつも言われている言葉ですが、それは分野を超えても同じなのだなと実感しました。話が急に変わりますが、もうすぐ季刊生命誌83号の発行日、編集も大詰めです。今回サイエンティストライブラリーにご登場いただく先生も、80歳をすぎた今も尚、現役として実験に打ち込まれている方です。お話しはご自身の研究に捧げる情熱であふれています。発行を楽しみにしていてください。