展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【変わってますか その2】
2013年1月7日
陸で暮らす脊椎動物と言えば、ほ乳類、鳥類、爬虫類。いずれも身近な生きものですが、このグループをまとめると羊膜類というどうも馴染みのない名前で呼ばれます。私は大学で羊膜類が3億年くらい前にほ乳類の祖先と爬虫類の祖先に分かれてからのDNA配列の違いを研究していたのですが、「何の研究をしているのですか」と聞かれて「羊膜類の・・・」と言いかけると難しそうな顔をされてしまうのです。そこで生命誌のエポックの第三弾は「上陸」がテーマなので、是非この機会に「羊膜」をメジャーにしようと決心しました。しかし、羊膜類の祖先が卵に羊膜を持つようになったその当時の状況は、化石にもなりにくいですし、分かっていません。調べるうちに、オタマジャクシの尻尾のヒレに張りめぐらされた血管が肺の代わりをして、カエルになって卵から孵るカエルを見つけました。コキーコヤスガエルです。鳥類の卵の殻を裏打ちする膜にも肺の役目があるので、この卵に上陸のヒントがあると直感したのです。
「変わる」がテーマのパラパラマンガで一度は「発生」を取り上げたいと思っていたので、28年前に出版された発生図譜の論文を探し出して見ると、これがまさに変わってました。オタマジャクシになるどころか四本の足が同時に卵黄の上に生えてくるのです。カエルの発生といえば当館の橋本研究員が専門ですが、さすがに見たことがないので、相談に乗っては下さるものの無責任なことは言えないと引き気味です。そこで世界でも珍しいコキーコヤスガエルの研究に取り組んでいるアメリカのピッツバーグにあるデュケイン大学のリチャード・エリンソン教授に、コキーの発生のパラパラマンガ(英語ではflip animationです)を作りたいと思い切ってメールしました。さすがコキー愛する研究者だけあって喜んで協力しますとのお返事と参考の写真をいただけました。それを元に坂さんと相談して絵を作りますが、パラパラとなると動画のように動かねばなりませんので結構な量になります。卵割はツメガエルとは違うと論文にあったのですが、図がないのでとりあえずツメガエルで代用し、いろいろなデータをつぎはぎして60コマを作りあげました。それをエリンソン教授お送りしたところ手書きの添削ファイルが届いたのです(図)。謎の卵割のところも丁寧に指示があり、見慣れたカエルの発生とは違うディテールまでを再現することができました。パラパラしてみていかがですか。やっぱり変わっていますよね。でも結構、気づかないで「へー、カエルだ」って納得してしまう人もいるんですよ。
エリンソン教授の手書きの修正原稿。発生の詳細がわかります。