展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【植物の動きを追いかける】
私が調査で通っている山は京都市の北にあり、10月には紅葉が始まり山中が見事な色に染まりますが、11月にはすっかり葉が落ちて寂しい姿になります。でもそんな季節の晴れた日に林床を歩くと、明るく日が差し込んで気持ちがよいものでした。今ではすっかり雪に閉ざされてしまい、春から続けてきた調査も今シーズンは終了です。今年に入ってからは研究室で論文を読んだり書いたりしながら、ときどき正月の残りのお餅を焼いて一息つくというような生活をしています。お餅といえば昨年末、お正月の準備にバタバタしているときに、飼っている犬が鏡餅を丸ごと持ち出して生のまま食べてしまいました。犬は本来肉食だと思うのですが、人と生活して時に同じものを食べているうちに、与えたことのないお餅のようなものまで好きになってしまうようです。生育環境によって、エサとして利用できる資源も決まってくるのでしょうか。一方、植物でいうエサは光と水と養分のみで、他のものは絶対に受け付けませんし、もちろん変えることもできません。そのため高等植物の体のつくりはとても単純で、光を得るための葉、水と養分を得るための根、葉と根をつなぐための茎という構成です。単純だから何の戦略も持っていないように見えますが、実は動物と同じく、複雑な戦略を働かせているのです。ゆっくりすぎて見落としがちな植物の動きをいかに正確にとらえるか、そしてそのゆっくりすぎる動きをどう解釈するのかは難しいところですが、植物の葉が風に揺れるのも、見事に紅葉するのも、やがて落葉してしまうのも、雪の下でじっと耐えしのぐのも、生きものとしての知恵を働かせた結果であることが明らかになってきています。葉っぱ一枚の動きから体全体の動きまで、ばらばらに理解されている植物の動きをまとめて、イメージしやすく伝える展示や映像があったらいいなぁ…と、難解な本や論文を前にして切実に思うところです。 |
[ 齊藤わか ] |