展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【続いてきたからこそ新しい】
つい先日、文楽の千秋楽を観てきました。昨年のリサーチで取り上げた文楽ですが、実は私は担当するまでほとんど文楽を知らず(恥ずかしい話ですが)このリサーチが縁となり仕事で幾度か文楽劇場を訪ね、個人的にも公演を観るようになりました。リサーチ担当者が言うのもなんですが、確かに記事を読んでも面白いけれど、実物を見ると圧巻されます。今回観たのは「義経千本桜」の通し狂言で、初演は延享四年(1747年)、つまり200年以上に渡って演じられてきたわけですが、まったく古さを感じさせません。繊細で、時にウィットに富んだ人形の動きや太夫三味線の語りに難なく感情移入して、笑ったり泣いたり。リサーチの「この一種奇妙な、ある意味現代離れをした舞台芸能は、不思議な魅力があり、私に感動をもたらした。」という言葉は、なるほどまさに、と思います。 文楽で演じられているのは、ただの歴史物語や巷の事件ではなく、人間の関わり合いの中から生じるやるせなさやおかしみだからこそ、現代に生きる私たちにも通じる部分があり、響くのでしょう。彫刻家の舟越桂さんは59号のトークで「人間の姿を表現することは打ち止めになることはない」と仰っていたように、人間の深い部分まで掘り下げた芸は、ある種の共通性を得て時代を超えて人間に訴えてくるのかもしれません。それが何なのかはわかりませんが、38億年続いてきた生きものであり、文化を持った人間である私たち自身が自身を見つめることで、オートポイエティックに生み出されて続いてくるのかな、と。 だいぶ脱線しましたが、先日入稿した2008年度の生命誌年刊号「続く」の色校正をしながら思いました。分子から生態系、そして人間としての「続く」を考えた年刊号、書店に並ぶのは6月下旬です。今までとだいぶ異なる体裁なので、書店で探すのを楽しみにして下さい。 | |
[ 今村朋子 ] |