展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【些細なもの】
今の時期は寒いですが、大気が澄んでいるので、歩くには良い季節ですね。街歩きが好きなので、時間が許せば知らない土地を歩くようにしています。研究館の帰りも寄道をして、高槻や大阪の街にも少しずつ馴染んできています。 さまざまな街を歩いていてやがて気づくのは、その土地の空気の感触です。「におい」といってもいいかもしれません。現実のにおいというよりも、それらをひっくるめた全体の印象が「におい」として結像するという感じでしょうか。ほんの些細な感覚ですが、それは決して単純なものではなくさまざまなものが折重なった複雑な「におい」です。どの土地もそれぞれに独自の空気をまとっていて、また、少しの距離で土地の空気が違っていたり、遠く離れた場所なのにどこか似た空気を感じたりする。そういうことを経験するたびに、これは何なのだろうかと不思議に思うようになりました。おそらくそれは、土地のおかれた気候・風土とそこでの人々の生活の蓄積のなかから、長い時間をかけて醸されてきたものなのでしょう。そして、たとえば街中の小さな通りひとつをとってもそれぞれの歴史の蓄積をもっていて、さらに無数のエピソードを介して別の思わぬ場所とも繋がっている。この時間と場所の繋がりの集積のなかに、土地の「におい」の培地があるような気がします。「地霊」とも訳されるラテン語のgenius lociという言葉もそのようなものをさしているのかもしれません。些細なものの背後にも広大な領域があって、思わぬ場所に繋がっている。いきものを見るときにも、そういう感覚を大事にしていきたいと思います。 | |
[ 吉川徹朗 ] |