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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【新しい展示に取り組んでいます!】

山岸 敦
 ようやく秋らしい日々が続くようになってきました。「○○の秋」にはいろいろな言葉が入りますが、カマキリやトンボなど夏を過ごした昆虫が冬を前に産卵するのを見ると「卵の秋」という言い方もできるかもしれません(もちろん秋以外に産卵するものも多いですが)。そういえば、イクラの旬も秋です。やはり食欲の秋。
 さて私はいま、来春公開の新展示『ものみな一つの卵から』展(仮題)の製作に勤しんでいます。展示のテーマは、卵が親になるまでの形づくり、生物学で言うところの「発生」です。
 発生という現象は私自身非常に面白いと思っていまして、特に、発生で起きる形づくりの過程に変更が生じて、形態の進化につながるという話にはわくわくします。たとえば、ムカデのように全ての体 節に脚がある節足動物も、胚のときは少数の体節から始まり、発生中に(あるいは種によってはふ化後も)だんだんと体節を増やして脚も増えていきます。もしこのとき何らかの異変が起こって、適当な体節数と脚の数で発生を止めたら、、、ひょっとすると6本脚の「昆虫」みたいな生きものが出現するのかもしれません。もちろんムカデが昆虫の祖先というわけではありませんが、原始的な節足動物から昆虫が進化した時のシナリオをこのように推測する研究者もいます。つまり、発生は長い進化の物語を読み解く切り口になるのです(そういうわけで私はムカデに可能性とロマンを感じるのですが、まわりで同意してくれる人はあまりいません)。
 また「発生」は、基本的には「生まれるまで」の卵の中や母親の胎内の中で進行する現象をさす言葉ですが、「生まれた後」の個体が、世界で育ち、暮らし、次の世代を産んで、死んでいくという連続的な時間の流れの中の一つの過程ととらえることもできます。動物はみな「ひとつの卵」から発生し、それぞれの生活環境で暮らすにふさわしい形を持って生まれ、生態系の多様性の一員となる。その中に、あなたも私もいるわけです。
 「発生」を実感出来る部屋を作るため、やらなければいけないことがまだまだたくさんあります。ご期待下さい。




 [ 山岸 敦 ]

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