展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【恋する虫愛づる姫君】
今BRHでは、中村館長、山岸スタッフを中心に医学部向けの「生命誌講義」を進めている。ここに月9ドラマとは軽率だと言われるかもしれないが、仁子の悩みは医療や科学に職業として携わる人もそうでない人にとっても、共通する事だと思う。生命誌講義は、科学の歴史や現代のゲノム研究について学び、考え、それらと「私」と重ね合わせることで、日常の生きもの感覚に根ざした科学・医療をやりませんか?という提案だ。館内の学生やスタッフが集まるプレ講義では、目先の損得勘定や論文に必要な遺伝子だけに眼が行きがちな日常で、ゲノムを切り口にするという生命誌を実践するのは難しいという声が挙がった。20〜30代というメンバーの年齢もあるだろう。一般の来館者でも、生命誌にすうっと入ってこられるのは高校生くらいの多感な時期の女の子か、子育てを終えたり会社を退職したりで余裕のある年輩の方が多い。ひたすら目の前の仕事や家庭をこなしていく中で、1つの理念にあらゆる行動を基づかせるのは難しいだろう。だからといって、そこから背を向ける、あるいは理屈ばかりこねるのは詰まらない。 4月1日から新しくSICPスタッフとしてHPを担当してもらうイタハシさんが、「ライフプランをチーフに尋ねられて驚きました」と言ったのが新鮮だった。内と外で「私」を切り替える術は子供の時から身に付くものだが、両者を切り離したまま物事を進めていくと、どこかで歯車が狂っていく。科学と社会というテーマの中に「私」をもちこみ考えるとき、人として心と身体をどう保っていくかというところを放っておくと、上滑りの議論におわってしまうだろう。 日常と科学の間をいったりきたりして涙を流し、怒り、笑い、恋する仁子さんは、生命誌でみると中途半端な虫愛づる姫君かもしれない。私なぞには、「うんうん、オーケー」な女性であるのだが。 [桑子朋子] |