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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【バックナンバー 】

1999年3月1日

2月16日
 ついこの間、共に海外未体験だった親友が私を置いてネパールに飛び、当地の楽器"サランギ"を抱えて帰ってきた。
 それは、全長50cm程の弦楽器で、バイオリンのように弓を使うが、ボディはマンドリンのように丸く厚いので、首に挟むのではなく、座って膝の上などに置いて弾く。弦は4本。よく見ると、一番細い1本はエレキギターの弦、残りはバトミントンラケットのガットのようだ。バイオリン等と違って、弦を指先で指板に押さえつけるのではなく、爪全体で横から押すようにして音程をつくるのだが、これがなんとも微妙で快い。
 ごつごつした一木作りで、裏面には象の顔の彫り物が施されており、バイオリンでいえば渦巻きのカタツムリみたいな所は鳥の頭部の彫刻になっている。
 私の知っている限りの楽器の中で比べるなら、どう見てもバイオリンの類だ。そこで、これはもしや、異なる地域で形態の類似する楽器が出現する、楽器の平行進化なるものか!?と考えた。
 楽器の発達史に関しては全く無学なので、世界大百科事典(平凡社)をひいてみるに、サランギはインド起源の民族楽器。バイオリンの祖先は正確には不明らしいが、誕生は16世紀イタリア。なんとインドとイタリアとで同じような楽器を思いついた人がいたのか・・・。いやいや、擦弦楽器の登場は10世紀頃で、中央アジア起源説が有力とのこと。残念だが、恐らくサランギのような楽器が巡り巡ってバイオリンとなったのだな。
 そしてきっと、先頃私が購入したビートルベース(バイオリンの形をしたエレキベース)にも繋がってくるんだな。何!撥弦楽器は擦弦楽器よりも歴史が古い?とすると、雑種か・・・と気まぐれな空想は続く。

2月18日
 折しもそのようなことを考えていたら、今日はお琴のコンサート(昨年、生命誌研究館のサロンコンサートに出演して下さった福原左和子さんのデュオコンサート)を聞きに行く機会に恵まれた。13本から17本もの弦を張る大きな楽器。かなりの突然変異体だ!と、またまた勝手な妄想。
 それにしても、一体どうしてこんなものを思いつくことができたのか。木に弦を張り、それをはじくとか、こするとかして音を奏でることを。
 現在、完成された楽器を当たり前のように見ているが、その始まりのことを思うと、リコーダーの丸い穴にしても、吸っても吹いても音が出るハーモニカにしても、鍵盤の数にしても、あらゆることが奇跡のように感じられる。
[北地直子]

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