展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
バックナンバー
【バックナンバー 】
1998年12月15日
音楽自体は演奏が終わると消えてしまうので、むしろ生命の発生に似ているのではないかと思った。楽器を遺伝子だとすると、音は遺伝子が発現させるタンパク質。演奏者の耳はオペレーターのような配列になるだろうか。様々な音(タンパク質)が演奏者の耳(オペレーターのような配列)に入ると、演奏者はその音のパターンを基に楽器(遺伝子)を動かし、次の音(タンパク質)を響かせる(発現)。楽譜は遺伝子が働く時空間パターンを表していることになるが、演奏はむしろ楽器が奏でる音やそれを聴きとる演奏者との関係でひとりでに進行していく。一旦演奏が始まると、音楽は自己組織的に進行するのだ。だから、楽譜は卵細胞に仕組まれた発生の初期設定ということになるのではないか。ちょっと無理があるかもしれないが、指揮者は生育環境に相当するように思う。 考えてみたら、楽器(遺伝子)は遺伝子族も作っている。弦楽器、打楽器、木管楽器・・・は遺伝子族である。バイオリン、ビオラ、チェロ・・などは遺伝子族の構成メンバーだ。 こうしてみると、音楽は本当に発生に似ているなと思った。音楽を聴き終わり心に残った感動は、発生の後誕生する生命ということになるのだろうか。 [鳥居信夫] |