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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【バックナンバー 】

1998年8月15日

 10月から特別展「チョウの翅が語る生命誌」が始まります。そんなこともあって、展示担当者の私の回りには昆虫の本がたくさんあります。その中の「・・・Butterfly(チョウ)・・・」という本に何となく目が向きました。ぼーっとその英文字を眺めているうちに、ある疑問が頭をよぎったのです。なぜ、バター蝿(butter・fly)なのか?fly(蝿)が付くのは何となく理解できる。翅を持って飛び回るものを総称してflyと名付けたのだろう。dragon・fly(トンボ)もflyが付いている。でも、どうしてバター(butter)なのだ。トンボの場合はdragon(ドラゴン:竜)と付いていても納得がいく。トンボは胴体が細長く、口も大きく、肉食で竜蝿といっても良いくらいだ。しかし、チョウの胴体はバターには似ていない。雪印のバターに翅が付いて飛んでいるイメージは誰も持てないと思う。
 そこで、他の理由を考えてみた。
その1:
 buttという動詞があるのではないか。その関連語として"buttする人"という意味のbutterという単語があり、"buttする人"がチョウの胴体に似ているのではないか。そこで、辞書を調べてみると、角で突く、突き当たる、ぶつかる、という意味の動詞が出てきた。ちょっと理解できない。ぶつかる人がチョウのような顔をしているだろうか。そんなこと聞いたことない。これは、どうやら間違っていそうである。
その2:
 butterが頭に付く他の単語を調べてみてはどうか。とくに、生物の名前でbutterが頭に付くものに注目すれば共通点が見いだせるはずである。再び辞書を引いてみた。すると、butter・bean(あおいまめ)、butter・bur(フキの類の植物)、butter・cup(キンポウゲ)、butter・fish(ギンポの類)という単語が見付かった。よく見てみると、butter・fish→大西洋岸産の"ぬるぬる"した魚、と書いてある。これだ。キーワードは"ぬるぬる"。よく考えたら、フキも"ぬるぬる"、バターそのものも"ぬるぬる"しているではないか。チョウも"ぬるぬる"しているのだ。ご存じの人も多いと思うが、チョウは鱗粉という粉で覆われていて、うっかり掴むと鱗粉がはずれてスルリと逃げてしまうときがある。これは、"ぬるぬる"と言えるのではないか。というわけで、butter・flyは"ぬるぬる"した蝿という意味だという結論に達した。
 ところが、その後、他の辞書にButterflyの語源が載っていることがわかった。それには、「バターのようなものを排泄することからButterflyとなった」と記されており、私の結論は脆くも崩れさったのである。やはり、"ぬるぬる"にはちょっと無理があったか。それにしても、排泄物に注目するなんて相当な変わり者だ!!ということで、この語源探索の旅は終わりです。(ちなみに、dragonは目の鋭いものという意味らしい)
[鳥居信夫]

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