展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
バックナンバー
【バックナンバー 】
1998年5月15日
ところで先日、「生命誌」の取材で、さる農学者に話を聴く機会がありました。そう言えばピンと来る方もいらっしゃるかもしれませんが、イネの起源をDNAで探っている研究者です。彼は、同様にクリも見ていて、縄文人がクリを栽培していたらしい、と推測していました。ク、クリ…? ? 今の生活からはなかなか実感できない気がしましたが、ふと、ずっと以前読んだ[徒然草」の中の話を思い出しました。「この娘、ただクリをのみ食ひてさらに米の類ひは食はざりければ、人に合ふべきにあらずとて親許さざりけり」。年ごろの美しい娘がごはんを食べないでクリばかり食べている、そこで厳格な父親が、そんなやつは嫁に行かせるわけにはイカン、と言ったという、ただそれだけの話なのですが、クリを巡って、兼好法師が何を言おうとしているのだろうかといろんな推測が沸いてきて、なんだかとても好きな章段の一つでした。 今回、日本に縄文時代からクリの栽培があったかもしれないという話を聴いて、なぜクリ?ということについて今まで見えなかったものが見えてきた気がしたのです。そのころの食量事情、クリ栽培の文化的背景、などなど…。想像がさらに膨らみました(あくまで想像ですが)。こんなところに生物の研究が結びつくとは。生物学は、決して実験室の中のものだけではありませんですね。 [高木章子] |