研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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絵を描くことの大切さ
2017年1月5日
カエルの形づくりを考えていると、頭の中では処理が追いつかなくなり、ついつい色鉛筆を握りしめて紙に向かうことが多くなってきます。絶対的な条件だけを決めたらあとは予断を入れずに組織の動きを描いてみるのです。前の段階の形,次の段階の形、その次の・・・・という具合ですが、条件だけは外さずに、それ以外は自由に並べ替えて行くと、描き始める前には思いもつかなかった動きが見えてきます。逆に、描く前に想定していた動きにするにはかなり無理があることもわかってきます。たぶん、一番自然な(無理のない)動き方を実際の形づくりの際にもしているのだろうと考えることができ、それをひとつの作業仮説として、それまでのデータをあらためて見直します。また、その作業仮説が正しいのか間違えているのかについて実験的な検証が行なえます。
もう10年以上も前にツメガエルの原腸形成運動についてのモデルを考えていたとき、頭部はかなり早い原腸胚の赤道に決まっているという結果を得ました。だから、赤道に頭部を固定して絵を描いたら尾部を後に伸ばすしかない、それも植物半球に背中を形成させるしかないとなりました。まあ、これはそれほど意外なことではなかったのですが、実はそのときに大きな発見をしていたのです。しかも発見をしていたのにそれから10年以上その発見に気付かなかったのです。私たちは、この数年の研究から、オーガナイザーと頭部神経が「S&Z運動」によって最初に接すると提唱しています。これは本当にこの数年の(それまでの研究の礎があってのことではありますが)研究によって明らかとなった新しい事実なのですが、この結果を知ってから10年以上前に作ったアニメーションを見直してみたら、なんとS&Z運動をちゃんと描いているのです(図上段)。今になって思えば「それはそうだろう」です。だって、これ以外にあの形を作らせられないのですから。でも、そのときにはやはり原口からの「陥入」を無意識の中に想定していました。内部同士が出会うS&Zなど思っても見なかったわけです。
真実は無垢に描いたなかにすでに存在していたということです。私は「誰にでもできる実験」を売りにしているところがありますが、実験どころではなく、ともすれば幼児のするようなお絵描きの中にもヒントはあるのですね。
(上段)2002年時点では、まだ教科書のように原口背唇部が潜り込んで予定頭部神経に接すると思っていましたが、描いた図を見ると外の組織はまったく中に入ることができていません。胞胚腔の床(図では肌色の部分)が背側(図では右側)に動いて予定頭部神経に接しています。おそらく、教科書のような作画ができないことを無意識に感じていたのでしょう。
(下段)「S&Z運動」を提唱した2015年に描いた図。胞胚腔の床(図では赤の部分)が背側(図では右側)に移動して頭部神経の裏打ちをする様子がしっかりと描かれています。