1. トップ
  2. 語り合う
  3. 分子が見える世界

ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

分子が見える世界

2016年11月1日

小田 広樹

今年のノーベル賞医学生理学賞の受賞が決まった大隅良典氏が基礎科学の重要性について発言されていますが、その内容に共感を覚えます。短期的に成果が出る研究に資金がシフトしつつある日本の現状を憂えてのことかと思います。一方、「人がやっていないことをやる方が楽しい。」「サイエンスはどこに向かっているか分からないが楽しいことなので、」などの言葉は大隅氏の純粋さが表れており、基礎科学の研究者として理想の境地かも知れません。

ところで、ノーベル賞にはほど遠い話ですが、この9月に私たちの研究室から論文がでました。原子間力顕微鏡を使ったカドヘリンの構造に関する仕事です。私の研究室に以前在籍していた大学院生の西口茂孝さんがオリンパスに就職したことがきっかけで、研究が発展しました。最初に西口さんから提案があるまで原子間力顕微鏡というものをほとんど知らなかった私ですが、実際に研究をスタートさせて、精製したカドヘリン分子がすべてオタマジャクシのような形で観察された際には驚きました。私の中で、分子の世界は想像の世界だったので、具体的な形が見えたという事実に直面して、追究すべき科学がまだ先に有るのを強く感じました。これまでカドヘリンの構造の多様性を主に配列レベルで研究してきましたが、今回の論文では、これまでの研究を発展させるための新たな道筋を提示できたのではないかと思っています。論文の詳しい内容についてはプレスリリースをご覧下さい(http://www.brh.co.jp/imgs/research/lab04/pressrelease_160902.pdf)。

自分の持った学生に導かれた研究。どこに向かうか分からない、人と人の相互作用が道を切り開く研究。それも基礎科学の醍醐味です。

[ ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田 広樹 ]

ラボ日記最新号へ