研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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脊椎動物の形づくりとは
2015年11月16日
違いを突き詰めれば個体差にまで行きつきます。しかし、たとえばヒトというカテゴリに分けられた仲間は、そのカテゴリに共通する「形づくりの法則」があるはずです。同様に、カエルにはカエルの、イモリやサンショウウオにもそれぞれ特有の形づくりの仕組みがあるでしょう。しかし、それらが両生類のカテゴリに入れられたら、両生類に特有の形づくりのやり方が見えてくるはずです。生きものは多様です。多様であることにこそ生きものとしての尊厳や存在意義があるとさえ思えます。しかし、一方で、その多様の中から「違い」を排除していったところに共通性や普遍性が残ります。カエルとイモリの違いを除いて残るものが両生類としての共通性だというわけです。普遍性の中には進化の歴史が残されており、その普遍性こそがその生きものの多様性を担保しているのではないかとも感じます。
進化の過程で最初に出現した両生類、すなわち現存する両生類の祖先はおそらく一種類だったでしょう。もちろん、その一種類の形づくりの仕組みはひとつしかありません。その両生類種が、形づくりを繰り返す間にゲノムにはさまざまな変異が導入されます。緩やかに時間をかけてさまざまな変異が蓄積されていき、それが生きものに多様性を与えます。
特定の分類群に属する生きものには共通の形が保存されています。進化的に保存されている形を共通に有するという事実は、その構造を形づくる過程もそのカテゴリ内では進化的に保存されていると考えられます。ゲノムの変異自体は確率的に均等に導入されるはずですから、形づくりの過程が進化的に保存されているということは、その過程に影響を及ぼす変異は残ってこなかったことを意味します。ということは、その過程を変化なく維持することが、そのカテゴリに属する生きものにとっては必須であったのだと考えられるわけです。
ゲノムに導入される変異には受け入れられる(淘汰されない)ものと受け入れられない(淘汰される)ものがあります。受け入れられた変異は多様性を産み出します。変異を受け入れられなかった形づくりの過程は、結局は変化できないないままに普遍性としてその生きものに存在し続けるということです。だから、ゲノムに導入された変異がすべて進化の原動力になるのはもちろんですが、ゲノムの変異が一義的に進化を駆動するのではなく、変異を取捨選択する拘束みたいなものが形づくりの過程にはあるように、発生学者の立場からは見えてなりません。すなわち、変化してはならない過程に影響を与えるすべての変異をもつ個体は、個体発生を全うできなかったゆえに成体になれず、結果として子孫を残せなかったということとなり、この意味においてその変異は「淘汰された」こととなります(これは形づくりの過程にかかる淘汰であり、ダーウィンの言う「自然淘汰」は成体の振る舞いにかかる選択であるため、厳密には両者は異なります)。だから、形づくりという動的な事象の普遍性や共通性を探る試みは、進化を考えるために重要なひとつの要素だろうと思えます。
私たちは両生類の形づくりに関して新しいモデルを提出しています。このモデルの観点から、脊椎動物という大きなカテゴリーの共通性が導き出せそうに感じています。これまでは直接的な比較がなかなか困難であったサカナとカエル、カエルとトリや哺乳類などの形づくりが、共通の言葉で表現できるかもしれません。カエルを一所懸命に調べていたらヒトが見えてきた・・・・面白いと感じませんか?
このことに関して、2016年1月16日の「生命誌の日」で丁寧にご紹介しますので興味をお持ちの方はぜひ高槻まで足をお運びください。