研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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小笠原諸島を訪ねて 〜トキワイヌビワとオオトキワイヌビワは本当に別種なのか〜
2015年5月1日
3月の下旬に、小笠原諸島のイチジク属植物とイチジクコバチの調査採集に行ってきました。まだ肌寒い本州から丸一日のフェリー旅で小笠原に辿り着きますと、冬からいきなり初夏に迎えたような気分でした。母島と父島、それぞれ3日間の調査採集を行いましたが、毎日汗を流しながら森の中を歩き回って、サンプリングをする傍らに小笠原の景色も満喫しました。
小笠原諸島には、オオヤマイチジク(Ficus iidaiana)、トキワイヌビワ(F. boninsimae)とオオトキワイヌビワ(F. nishimurae)の3種のイチジク属植物固有種が生息しています。今回の調査では、必要な研究材料が取れたことはもちろんのことですが、オオヤマイチジクを見ることができたことと、トキワイヌビワとオオトキワイヌビワはおそらく区別できない同種であると強く感じたことも大きな収穫でした。
オオヤマイチジクは、これまで一度も見たことがなく、あんなに高木であることは、近縁種のイヌビワや、トキワイヌビワとオオトキワイヌビワからのイメージとは随分違っていました。10mほどの高さになり、長さ20cmを超える大きな葉と長さ2cmほどの洋梨形の花嚢をつけ、トキワイヌビワ・オオトキワイヌビワとの違いは一目瞭然で、オオヤマイチジクであることは一目で分かります(図1)。
しかし、トキワイヌビワとオオトキワイヌビワと言いますと、どちらかの種を判別することができない個体は今回の調査では多々ありました。オオトキワイヌビワと比べて、トキワイヌビワは「日当たりを好む」、「托葉が宿存性」、「木はより大きくなる」、「枝分かれが多い」、「葉は一回り小形」、「花嚢は壺状楕円形」の特徴があると言われています。しかし、例えば、ほかの特徴からオオトキワイヌビワに見えますが、托葉が残存していたり(図2)、逆にほかの特徴からトキワイヌビワにみえますが、托葉がなかったり(図3)して、判別することができない個体は多くありました。また、樹形、枝分かれと葉の特徴からオオトキワイヌビワに見えますが、花嚢の形は壺状楕円形ではなく、卵状球形である個体もたくさんありました。
図1.オオヤマイチジク
図2.オオトキワイヌビワ?
図3.トキワイヌビワ?
山崎(1989)による「日本の野生植物、平凡社」では、これら"2種"を同種と見なされています。これはおそらく妥当な処置でしょう。トキワイヌビワとオオトキワイヌビワは、多分別種ではなく、生育環境による種内変異であると強く感じました。日当たりのよい環境に生育している個体は比較的に背が低く、枝分かれが多い傾向があるため、よりトキワイヌビワのような特徴に、林内の薄暗い場所に生育している個体はなるべく日当たりができるように枝分かれをせずに背を伸ばしているため、よりオオトキワイヌビワのような特徴になっているようです。林内でも、高さ2-3mの低木林内に生育している個体は、大体樹冠が完全に上に出ていて日当たりがよいため、枝分かれが多いトキワイヌビワのような特徴になります。
ちなみに、これまでの私たちの分子系統学的解析でも2種の違いを見つけることはできませんでした。今後の更なる解析の結果を期待したいと思います。今回の日記はちょっと堅苦しい内容になりましたが、読んで頂いて有り難うございます。