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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【先入観】

 2011年度も残り1ヵ月となりました。3月は1年間の研究のまとめの時期でもあります。この1年でイモリの原腸形成過程の分子生物学的な解析が進み、イモリとツメガエルの相同点と相違点がだんだん見えてきました。ツメガエルは、中胚葉が胞胚腔の屋根に向かって原口からさかのぼっていく、高校の生物の教科書に載っているような、いわゆる“原腸陥入”はしないというのが橋本ラボの以前からの主張ですが、“原腸陥入”しているイモリと比べることで、より信憑性が増してきました。しかし、ツメガエルもイモリも同じ動きをしていると考えている方は、この分野の研究者を含めてまだ多くいらっしゃいます。その理由は、卵の形も似ている同じ両生類だからという先入観によるものからだと思います。
 生き物を相手に実験をしていると、0か1かの結果が出ることはほとんどありません。ここに主観的要素が入り、誤った先入観によって結果をねじまげて解釈してしまう恐れもあります。論文などにまとめるときは、統計などのより客観的なデータも入れつつも、結果の写真は平均的なものを選ぶより、自分の主張したいことにあった写真を選ぶことが多くあります。図を作る途中はいろいろな程度の結果の写真を見ていて自分自身半信半疑でも、完成した図ばかり眺めていると自分の主張は正しいという暗示がかかってしまい、違う角度から見ることがより難しくなるので、気をつけなければと思います。しかし一方で、何の考えも無しに結果を見ようとすると、重要な結果を見落としてしまう危険性もあります。ある程度の先入観を持ちつつ、得られた結果と矛盾するところがないかを見ることで、新しい発見ができるのかもしれません。
 もうすぐ東日本大震災発生から1年が経過します。日本の原発は絶対安全という先入観から大きな事故につながりました。改めて1日も早く復興することを願っています。

[カエルとイモリのかたち作りを探るラボ 西原あきは]

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