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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【スランプ】

益田真都香 最近の事ですが、今まで何気なく出来ていた実験が出来なくなって困っていました。実験にスランプという言葉が当てはまるかどうかは分かりませんが、そうではないかと思う程に悩みました。そこで、原因を探る過程でひとつ考えたことをご紹介します。
 何が上手くいかなかったのかを少し詳しく書きます。世間一般でも「遺伝子組み換え」という技術は有名ですが、DNAをはさみで切って、また他から必要なDNAを持って来て糊で引っ付けるようにして、プラモデルを組み立てるように目的の遺伝子を設計する技術の事です。
 私たちもこの技術を使っていますが、この切るという作業があるとき突然に出来なくなりました。
 このような些細な箇所でつまずくと、実験が先に進めないもどかしさを感じます。色々と試してみた結果、おそらくDNAが絡まった状態にあるのが原因であるという考えに至りました。実際にDNAを綺麗にする作業の中で、あるステップで時間を掛け過ぎると、このような切れにくいDNAが出来てしまうことは経験的に分かっています。しかしなぜ切れにくいDNAを生じるのかは、まだよく分かっていないようです。生命科学の実験ではこのように「原理は分からないが、こうすると上手くいく」、「これは良く分かっていないが上手くいかない」といった事を実験の手順の中でも多く聞きます。
 このようにまだ良く分からないことの多い生命科学では、未熟な私にとって、日々の実験でも上手くいかない事が多いです。ですので、西口さんのラボ日記に指摘されていますように、「作り出すための原理」という方向性に向かっての研究を聞いた当初には、いまだに未知の部分が多い生命科学において本当にそのようなことが可能になるのかと思えました。しかし、近年の研究成果を見ると「作り出す」という事も現実味を帯びていると言わざるを得ないようです。現に私苦労していた実験もDNAを操作して遺伝子を「作り出す」ことだと改めて気付きました。
 実際に生命が持つ機能を土台から「作り出す」のは壮大な目的で、その前に解明すべきことは、とても幅広く多岐にわたる必要があると思います。しかし私は、そこに至る過程にも、小さいけれども突き詰めるとまだまだ面白い未知の領域が沢山あると思えます。実験のスランプが実は「作り出す」ことに向かう困難のひとつかもしれないと気づき、今まで経験的に実験されていたけれどもよく分からない部分というのも、突き詰めればもっと大きなことにつながるのではないかと思いました。


[カエルとイモリのかたち作りを探るラボ 益田真都香]

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