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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【公開飼育】

尾崎克久
 2年ほど前から取り組んでいる、「本物が見たい」シリーズの拡張を試みています。「本物が見たい」シリーズというのは、来館者の見学のため用意された実験ではなく、日常行っている研究に必要な作業のうち、危険の無いものを来館者の皆様にご覧頂ける場所で行ってみようという試みです。
 当初は、アゲハチョウの飼育に使用する人工飼料を作成するための準備作業として、餌植物の葉を乾燥する作業を食草園前で行っておりました。正直なところ、こんなものをご覧頂いたところで来館者の皆様に喜んで頂けるのか不安に思いながら始めたのですが、偶然作業中にいらした皆様には思いのほかご好評を頂きました。
 そこで、調子に乗った尾崎は、人工飼料で飼育中のアゲハチョウもご覧頂こうと考えて、昨年秋頃から食草園前で公開飼育に乗り出しました。その辺にいるアゲハチョウの飼育なんか見てなんになるんだという気もしなくはないのですが、葉っぱではなくヨウカンのような人工飼料を食べている姿は珍しいと感じて頂けるのではないかという期待をしていました。
 これまで多数の来館者の方とお話をしましたが、期待とは違って一般の方には人工飼料にはあまり関心を持って頂けないことの方が多いです。昆虫を研究材料として扱っている学生さんや、昆虫館のような施設で働いていらっしゃる方にはかなり感動していただいているのですが・・・
 ところが、飼育環境下で羽化した成虫を交尾させたり、交尾済みのチョウから採卵をしたり、成虫に餌としてポカリスエットを飲ませたり、僕にとっては目新しいものではないと感じるとても予想外なところを喜んで頂けることが多いと思います。
 実はアゲハチョウを人工飼料で累代飼育するというのは、様々な工夫が必要になった "案外ハイレベル" なテクニックなのです。多くの工夫と努力をつぎ込んだ技術なので、この方法を開発した本人としては多くの方に是非ご覧頂きたいという気持ちがありましたが、来館される方の興味は“研究者がスゴいと感じる技”なんかではなく、生命現象そのものなんだと実感しました。
 研究の過程では、新規の技術を工夫しなくてはならない場面に出会うことも多いのですが、必要に応じて行った技術の開発は、生命現象を理解するためのステップの一つでしかないと確認する切っ掛けになりました。忌憚の無いご意見を頂いた皆様にお礼を申し上げます。
 今後も公開飼育は継続していきますので、偶然作業中に通りがかった方は、お気軽に声をかけて頂きたく思います。





[昆虫と植物の共進化ラボ 尾崎克久]

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