研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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イチジクとイチジクコバチのサンプル採集は、西表島から始まって、南西諸島全域、小笠原諸島、今年の8月には前回のラボ日記で話した中国採集(生命誌39号の採集日記参照)もついに実現しました。研究も海を越えて大陸へと拡がりました。
サンプル採集でいろいろな地域を回っているうちに、イチジクはその土地の風習と密接に関係していることが分かりました。
南西諸島の島々に行くと人々の家の周りや庭にはイチジクの木が植えている(もともとイチジクの木があるところに家を建てる?)ことが目につきます。これは台風の被害を防ぐ(或いは弱める)ためだそうです。
屋久島ではガジュマルというイチジクの木が目立って多く、 “ガジュマル”が付いた喫茶店やレストランの名前、“ガジュマル”の地名、兎に角至る所に“ガジュマル”の文字が目に入ります(ちょっと言い過ぎ?)。西表島の隣には「鳩間島」という、歩いて1周1時間もかからない小さな島があります。島の一番高いところにはアコウ(イチジクの一種)の巨木が周りに枝を大きく伸ばし、その丘の頂上を覆っています。木の回りは石ころで造られたフェンスで囲まれ、入り口の手前には石で造られた小さなお寺があります。その木は島住民にとってきっと神様のような存在なのでしょう。木に接近するときには、思わず両手を合わせて神様から許可をもらいます。それにしてもその木からサンプルを採集するのは気が重かった、、。
中国では食用のイチジクは「無花果」といい、野生のイチジクは「榕樹」といいます。中国の海南島には30数種類のイチジクがいると言われていますが、そのうちの2種、小葉榕(ガジュマル)と高山榕(日本にはない)は地元住民が“神樹”或いは“風水樹”と呼び、それらの木に傷をつけることは決して許されません。海南島での採集時に、3人の若者(高校生)が私たちの採集作業を面白がって、花嚢の沢山付いている大果榕に案内してくれましたのですが、車の中で彼らから「昔、二つの村が境界を決めようとして、自分たちの領地にその高山榕が入っていないと、風水が変わり、福が流れてしまうと村人が信じ込んでいて、結局未だにその村境界は決まっていない」という話も聞くことができました。
[DNAから共進化を探るラボ 研究員 蘇 智慧]
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