研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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私はチョウ(とガ)のハネを使って研究を続けています。今は、ハネの形づくりのしくみや、その「生物学的意味」といったものを調べているので、研究を「基礎研究」と「応用研究」に分けるとすると、明らかに「基礎研究」の部類に入ります。とは言え、「自分たちの研究でわかったことが応用されて、ヒトの役に立ってほしい。」という素朴な願いもあって、時折「(この研究は)どんな役に立つだろうか?」などと考えてみたりしています。「昆虫ロボット」という言葉がありますが、例えばそんなふうに、「チョウのハネの研究」も将来役立ってほしいものだと思います。
「何の役に立つか、などと考えていては基礎研究はできない。」という意見もあり、それはそれで一理も二理もあることを認めますが、私が「応用」についても思いを馳せるのは、次のようなことが「原体験」になっているからだと思います。
大学院(理学部)で「筋肉の収縮するしくみ(=分子機構)」を調べる「基礎研究」に携わっていたとき、「病気(?)になりやすい豚の肉」などの研究をなさっている、農学部の方々とのおつき合いができました。私たちは「研究に適した材料」を選んで研究していましたが、「研究対象が先にあって、とにかくそれを調べる。」といった類いの、農学部の方々の「応用研究」に、初めて身近で接することになりました。このとき、私のほうからは実験面で先方のお役に立つことができたと思うし、一方、私にとっては「この豚の筋肉を使ったら、自分たちにとってもおもしろい研究ができる。」とアイデアをふくらますことができました。「基礎と応用の交流というのは大切なんだなあ。」というのが、このときの実感でした。その後、この品種の豚は食用として使われなくなり、その研究も途絶えてしまったと思いますが、「特上の豚肉」を「お礼」としていただいた記憶とともに、そのときの実感だけは今も心の中に残っています。
基礎と応用の「交流」や、「バランス」の取れた発展、というものが(社会全体で)しっかりと育まれていければ、などと思うこともあります。
[チョウのハネの形づくりラボ 研究員 吉田昭広] |
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