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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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バックナンバー 【使い捨ての世界にて】

小野 肇
 実験をすると、これでもかと言わんばかりにゴミが出る。チップ、チューブ、シャーレ、キットのカラム・・・そのほとんどが使い捨てのプラスチック製品である。チップやチューブを洗浄して再利用している研究室もあるが、これらの単価が安くなった昨今、そのような部屋も年々激減しているであろう。実験の効率やコンタミの恐れを考えれば当然の流れである。さて、私は化学系の研究室の出身であるが、化学実験では器具を使い捨てにするという発想はなかった。いくら贅沢な研究室といえど、ナス型フラスコを使い捨てにする所はないだろう。使い捨てにするといえば、シリカゲルや活性炭の粉末と TLC プレートくらいではないだろうか? ODS やイオン交換樹脂のような高価な充填剤はいかれるまで再生して使っていたし、パスツールピペットは短くなったらキャピラリーや沸石にして活用したものだ。実験の後はせっせと洗い物、これを数日さぼれば、数時間にわたる洗い物の山が溜まってしまうのであった。この一番大きな違いはプラスチック器具とガラス器具の差にあるのだろう。もっとも、大量の溶媒を容赦なく使いまくるという意味では化学実験の世界も問題はあるが・・・
 よくよく考えてみれば、テクノロジーの発達に伴ってどうしようもなく使い捨ての世界が広がっている。その一番の象徴はコンピュータではないだろうか?冷蔵庫や洗濯機は壊れない限り10年以上使い続けても支障はないが、コンピュータとくれば2,3年経てば不自由してくる。しかし、このような巨大なゴミが世界中で氾濫して一体どうなるのだろう。そして、その恩恵にあずかれるのは先進国の一部の人間だけである。
 効率化と省力化を求めてサイエンスの世界では今後いっそう使い捨ての傾向は強まるであろう。設備、器具、備品、人材までも・・・
 使い捨ての世界に疑問を抱きつつも、テクノロジーに依存している人間の一人として、今日もまた為すすべもなくゴミを出し続けている。


[吉川ラボラトリー 奨励研究員 小野 肇]

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