館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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科学が社会の役に立つこと
2017年10月2日
米国のトランプさんと北朝鮮の金正恩さんの写真を毎日見るようになり、ちょっと考え込んでいます。他国の首脳をさんづけとは失礼なと叱られそうですが、一人の人間として見ているということですのでお許し下さい。
今、生きものを見る時にゲノムを考えないわけにはいきません。人間がもつのはヒトゲノム。これを解析した結果、今地球上に暮らすすべての人が共通の祖先をもつという事実が明らかになったということは今や誰もが知る事実です。
ヒトゲノム研究というとすぐに思いつくのが病気であり、医学・医療の最先端研究と位置づけられます。ゲノム解析の結果から病因を知り、創薬につなげる研究が求められていることは事実です。けれども、ここで注目しているのはやはり遺伝子です。そして、ゲノムからわかったことの一番重要な事実は、やはりどこの国に暮らしていようとも、生きものとしての基本は同じという事実です。
トランプさんも金正恩さんもそれは変わりません。ゲノム研究者の役割は、幼稚園の子どもにもこの事実を伝え、国や宗教の違いによる争いは兄弟姉妹げんかに過ぎないことをすべての人の共通認識にすることでしょう。そうすれば国のトップの間の幼稚園児のような争いのレベルも上るに違いありません。
ゲノムの共通性など、最先端知識でもなんでもありません。多くの人が、科学の話になると、今最先端はどうなってますかとお聞きになるのですが、科学に「社会の役に立つこと」をお求めなら、今一番役に立つ科学的事実は、ゲノムの共通性です。世界中の人が祖先を共有する仲間であり、その中での小さな違いが生む多様性を楽しむのが本来の生き方であるということです。政治・経済・学問・・・すべてを動かす人がこの気持を体に沁みこませて欲しいとつくづく思います。敢えてお名前はあげませんが、もちろん日本を動かす人たちも同じです。そして一番大事なことは、すべての人が生き生き暮らすことであり、それを基盤にした判断をしなければ未来はないということに気づいて欲しいと思います。