館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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人間のためにあるのであって、その逆ではない
2017年9月15日
好きな作家の一人にエーリヒ・ケストナーがいます。彼は第二次大戦でナチスにいじめ抜かれました。作品発表を禁止されただけでなく、既刊の詩などを公衆の面前で焼かれたのです。トーマス・マンなども同じ眼に合っていますが、その中でケストナーだけは、実際に焼かれている場をソッと見に行ったと伝記にあります。そんなケストナーが終戦後最初に書いた「動物会議」という短い作品にこめられたメッセージは、いつも心に止めています。「動物会議」は軍縮のできない人間に業をにやした動物が自分たちの決議を人間につきつける話です。
そこには武器を捨てるという直接の戦争放棄の他に
- ・役所と役人と書類だんすの数は、どうしても必要な最小限にへらされる。役所は、人間のためにあるのであって、その逆ではない。
- ・今後いちばんよい待遇をうける役人は、教育者とする。子どもをほんとの人間に教育する任務は、いちばん高い、いちばん重い任務である。真の教育の目的は、悪いことをだらだらとつづける心を許さない、ということでなければならない!
という項目があります。ここが好きなのです。必要最小限にするのは役人だけではない、なんだか威張っている人たちがあちこちにいるけれど、それも数を減らしていいのではないかと思いながらこの条文を読んでいます。
作品発表の禁止なんてとんでもないことはもうないでしょうとなんとなく思っていましたが、ある会議で、教科書づくりの場で上からの意向が強くなっているという話を聞いたものですからケストナーを思い出しました。