館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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戦争中の暮らしの記録
2017年8月15日
5月の始めだったと思います。「暮らしの手帖」とNHKから「戦争中の暮らしの記録」について話を聞きたいという連絡がありました。
話は1968年、つまりほぼ50年前に戻ります。新米主婦として家事全般の参考にしていた「暮らしの手帖」(母が読んでいたので、そのまま)が「戦争中の暮らしの記録」を募りました。そこには、「戦後22年、戦争中の記録として特別な人、大きな事件は残るだろうけれど、名もない一般の庶民があの戦争のあいだ、どんなふうに生きたかは、一見平凡なだけに残ることはないだろう」という趣旨の文がありました。
それまで、このような呼びかけに応募しようと思ったことはないのですが、なぜかこの時はまさに「一見平凡なだけに」とされる体験を書いてみようかと思ったのです。そして、たまたまそれが採用され、その年の8月に96号として出された特集号「戦争中の暮らしの記録」に載りました。
それから50年、NHKが記録を書いた人のその後を追う番組を作ることになり、私も投稿者の一人として参加することになりました。8月19日放映といことで、一体どんな番組かわかりませんが、「戦争は平凡な日々の暮らしを奪うから絶対にダメ」という感覚が身についている者として、平凡を残すという意図に共感します。
戦争は国際政治や経済から語られることが多いのですが、私にとっての戦争は「子どもの日常を奪うとんでもないもの」なのです。もちろん私の体験など小さなもので、日常生活の中に爆弾が落ちてきて命を奪われた仲間もたくさんいます。今も世界のあちこちで子どもたちの上に爆弾が落ちていると思うと自分がその年齢だった頃のこととつながり仲間のいのちが奪われるような気がするのです。それはダメ。そこから考え始めるようにすれば自ずと戦争はダメという答になります。
附録として、若い時に書いた子どもの頃の話をつけておきます。