館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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のどまる?
2017年5月1日
朝、出かける支度をしながらテレビのニュースを見ていました。プロ野球の話になり、つまらなかったので、何気なくチャンネルをまわし(本当はまわしてはいないのですが慣用句ですね)、教育テレビにしました。
たまたま「にほんごであそぼ」の「やまとことば」の時間で、「のどまる」という言葉を考えていました。のどまる?これまで一度も使ったことがありません。どこかから琴の音が流れてきたところでお茶を一服。「和まる」なのですって。とりあえずネットで調べてみたら、のどかになる、落ち着く、静まる、ゆったりとなるという意味で、「源氏物語」の須磨に「何となく心和まる世なくこそありけれ」とあるとありました。
改めて広辞苑を引くと、ありました(あたりまえですね)。「和まる」。その次は「和む」で、のどかにする、気持を落ち着かせるという他動詞です。ここも「源氏物語」の夕顔の「思い和めて」という用例です。「和む」には②ゆるめる、控えめにする③時間をのばす、猶予するという意味もあるようです。③の用例は「源氏物語」の若菜下で「今しばし和め給へ」です。用例はすべて「源氏物語」。源氏には何でもあるのですね。ここで、「のどか」という言葉を思い出しました。すぐ近くにありましたが、漢字は「長閑」。のんびりと落ち着いて静かなさま、天気がよくて穏やかなさまとあります。季節は春と。基本は同じなのではないでしょうか。
和える、和む、和ぐ、和まる(和む)。なんだか騒々しい世の中です。新聞を開くと怒りたくなることばかり書いてあり、しかもそこに批判の眼がないことにまた疑問がわき・・・。際限がありません。静まり、ゆったりしなさいと自分に言い聞かせながら、でも本質は忘れずに考えていこうと思いました。