館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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白衣の秘密
2017年3月15日
大企業の役員として大活躍した知人の女性、いつも10センチのハイヒールで颯爽としていました。今は、御自身の体験を生かして次世代の女性の育成に努めています。先日、そこで修行中の若い女性が、踵の低い靴をはいていたら叱られたと話してくれました。「仕事に出る時は、いつもいざ出陣の構えが大事。私は10センチのハイヒールに足を通すとシャンとする。そのくらいの気構えでなければよい仕事はできない」と。そうなのでしょう。
私の場合はずっと、歩きやすい靴を選んできました。実は着るものも同じで、スーツは外出着、労働には向きません。夏はTシャツ、冬はセーターが働きやすいので、職場に着くとすぐに着替えます。とはいえ、年齢も高くなり、それなりの役職となれば、来客にセーターでお会いするわけにはいきません。そこでありがたいのが白衣です。どなたがいらしても大丈夫。生命誌が大事にしている普通の人の普通の発想はTシャツとセーターが支えているのだからと自分に言い訳をしながら、今日も白衣の下はセーターです。
ここで思い出しました。いわゆるTシャツは1970年代になってからのもの、1960年代の大学院生の頃にはこういう便利なものがありませんでした。当時の大学はもちろん冷房などなく、夏の暑い時にいっしょうけんめい実験をしていると汗が流れます。そこで、一年上級の女性と対策を考え、秘かに、下着になって白衣を着ようということにしました。これまで内緒にしてきましたが、今の、白衣の下はTシャツかセーターという以上の秘密です。絶対バレていなかったと思いながら、あの暑さをなつかしく思い出しています。