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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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船に乗っているという緊張感

2016年12月15日

「船の上で生命誌の話をしませんか」というお誘いにちょっと心が動きました。世界中を航海している飛鳥Ⅱであり、さまざまなスケジュールがあるのですが、短くても一週間はかかります。手帳を開いて可能性のある日時を探しましたが、残念ながら年末までどこにも予定の入っていない週はありません。そこで、週末を活用して途中上船、途中下船をするという勝手なお願いを聞いていただき、石垣島、奄美大島、鹿児島を航海する三泊の旅をしました。低気圧が近づいていて少々揺れる中で「38億年の歴史の中で見る人間」という話をしたのですが、海で生れた祖先細胞がいつもより身近な感じで楽しい雰囲気でした。生命誌の一つのテーマである生きものたちの上陸は5億年ほど前、38億年のうちの33億年は海にいたのですから。

飛行機と同じで、乗船後まず行なわれたのは、緊急時の行動の説明、大型船とは言えやはり緊張感があります。その現われでしょうか。船内での活動はすべてpunctualです。朝食の始まりが7時15分とあれば、ピタリその時刻に食堂のドアが開きます。もちろん私の話も、司会者がほとんど秒の狂いもなく定刻に始めますから、話の終りもピタリにしないわけにはいきません。この生活はよい気分です。とても気に入りました。会合でもなかなか始まらなかったり、ダラダラ続いたりするのが好きではないので、船時間を提案したいと思っています。

日常も、地球号という船、日本丸という船・・・船に乗っているという緊張感、一体感、責任感を持つ生活のはずです。最近問題の長時間労働も、ピタリという生活を普通にすることで解決できるかもしれないとも思いました。

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