館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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電話相談の中で学んだこと
2015年8月3日
今年も、NHKの「夏休み子ども科学電話相談」のお手伝いをしました。小さなお子さん相手の生放送は正直緊張感の連続で、そろそろ卒業したいなとも思います。でも、「いのち」という枠は私だけということもあり、今年も参加しました。端から小学校三年生の男の子に「生きものはどうして死ぬの」と聞かれ、奮戦です。しばらくしたら、おばあちゃまからメールが来ました。「夏休みに入って孫の質問攻めに合い困っていたのですが、ていねいに話していただいたので納得したようです。ありがとうございました」と。お仲間の手助けができてホッとしました。
「おばあちゃんの家のメスの犬は坐ってオシッコをするのに、となりのオスの犬は脚をあげてオシッコをするのはなぜ」。4才の女の子です。前井の頭自然文化園園長の成島悦雄先生が、「オスは、ここはぼくのなわばりと言ってオシッコをして歩くのだけれど、その時にいっしょうけんめい脚を上げて高い所に印をつけるの。自分をできるだけ大きく見せて、強いと思わせようとするのね」とお答えになり、「実はメスの中にもそうするのが時々いるらしいんだよ」とつけ加えられました。
短絡はいけませんが、最近の社会の動きを見ていると、人間のオスにもとにかく大きく見せようとしているところがあります。強いんだぞ、立派なんだぞと見せることに目を向け過ぎて、本質を忘れているのではないかと思うことしばしばです。武力など用いずに、一人一人のいのちを大切に暮らす方がよい。きっと子どもたちはそう思っているでしょう。お金に振り回され、はたらいている人のことを忘れ、会社を立派に見せようとするのもおかしい。それにしても気になるのは、「メスの中にも時々いる」というお答えです。今の社会で、活躍しなさい、輝きなさいと言われると、そうなりかねません。そんなのおかしいよというのが私たちの役割だと思うのです。ナワ張り争いなどに眼を向けずに。